1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:14:29.34 ID:Lwadbvf60
今日、日本は7月の最初の日を迎えた。
( ゚д゚ )「Preliminary findings from a crosssectional study
suggest that text messaging on mobile phones……」
初老の英語教師は、けだるそうに、英文を呟く。
ふと、窓から外を見る。駐車場の、緑に染まった木には
ぽつぽつと、黄色い実がぶら下がっている。ビワだ。
どこからか、じわじわと、耳にこそばゆいような蝉の
鳴き声が聞こえ、俺は夏が近づいていることを実感した。
次に、俺の隣の隣の席に座る、友人を見た。
( -ω-)「うーん、それはミキプルーンじゃなくて干し乳首だお……」
( -ω-)zzz
そいつは、なにやらのっぴきならない夢を見ながら、気持ち良さそうに
机に突っ伏し、熟睡していた。そして、机の上には、教科書やノートが
一切開かれておらず、まったくハナから勉強する気が無いことを象徴していた。
('A`)「はぁ……」
俺は、ため息をつきながら、椅子の背に掛けてあった上着を
羽織った。クーラーが効き過ぎてて、寒いのだ。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:16:15.84 ID:Lwadbvf60
きんこんかんこんとありきたりなチャイムがスピーカーから
流れ、今日の授業がすべて終了したことを知らせた。
委員長の号令に従い礼をした後、俺はそのまま机の中の
教科書類を引っ張り出し、リュックに乱暴に詰め込んだ。
そんな俺の前に、ラジカセを腕に抱えた英語教師が現れ、言った。
( ゚д゚ )「お前もなあ、内藤のぉ、友達だったらぁ、あいつがぁ、
どれほどぉ、危ない状態かってことぉ、よぉく伝えておいてくれぇ」
('A`)「……了解です」
俺の返事を聞くと、教師は軽く頷き、その場を去って行った。
肝心の、「危ない状況」に陥っている張本人である、ブーンこと
内藤は、未だに夢の世界を飛び回っていた。
口の端からは、透明なよだれが糸を引いて、机上に着陸している。
('A`)「おーい、ブーン、起きなさい」
ブーンの丸々とした後頭部を軽く小突くも、一向に起きる気配はない。
しかし、これも想定の範囲内、長い付き合いで、こいつがちょっとやそっとで
起きるような奴ではないという事は、十分把握している。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:18:29.59 ID:Lwadbvf60
('A`)「ブーン、飯だぞ、起きろー」
( ^ω^)「mjd!?どこだお!?ごはん!」
('A`)「ウッソだぴょーん」
( ^ω^)「……」
ダルマのような勢いで起き上がり、目を輝かせたブーンだが、
俺の言葉を聞くと、不貞腐れたようにそっぽを向いた。
( ^ω^)「食べ物で釣るなんてひどいお、発展途上国まで
㌧でいっぺん地獄を見てこいお」
('A`)「よく分からねえ事言ってんじゃねえよ、今時食べ物に釣られて
目を覚ますようなお前が悪いんだ」
( ^ω^)「うるちゃい!爆死しろバーカ!」
両腕を振り回しながら叫ぶブーンをかわして、俺は
カバンを取った。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:20:29.13 ID:Lwadbvf60
('A`)「とにかく廊下に出よう、ここは寒くていけねえや」
そう、とにかく寒い。設定温度は、そう低くはないはずなのだが、
業務用クーラーなせいなのか、凍え死にそうになるぐらい寒い。
冷蔵庫の中にいるようである。
こういう冷気ってのは、自然的な冬の寒さではなく、
人工的に作られた、体に悪そうな寒さだから、不快なのだ。
( ^ω^)「やーい、冷え性!こんな素晴らしい冷房を、
体中で確かめられないなんて可哀想で涙が出るお」
('A`)「お前は堪能しすぎなんだよ、グースカグースカ
眠りやがって、先生からありがた~いお言葉を頂いている
から数レス前を今すぐ読みやがれ!」
( ^ω^)「うう、あんまりそういうこといわないでほすぃお……」
渋い顔でううと唸り、ブーンは立ち上がった。
すると、その衝撃で豊満なそいつの乳が、プルンと揺れた。
只でさえクーラーのせいで気分が悪くなっているのに、こんなものまで
見せられたら俺のメンタルが崩壊寸前になってしまう。
俺はブーンの腕を引っ張り、無理やり教室の外へと連れ出した。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:23:38.51 ID:Lwadbvf60
('A`)「うおぉー、神の恵みや、メグミルクやぁ~」
廊下は、湿気を含んだ重い蒸し暑さで充満されていた。
普段なら不快以外の何物でもないこの空気も、
クーラーの冷気に毒されていた俺にとっては、天使の施しのようであった。
('A`)「太陽よ~もっと我を痛めつけたまへ~」
( ^ω^)「頭いかれてるおコイツ」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたほどはいかれてないわよ」
廊下の傘立てに腰かけていたツンが、俺達の会話に参加した。
ここで、ツンについての説明をしなければなるまいが、
面倒なので一言だけ。「ブーンの幼馴染」、以上。
彼女はスカートの尻に着いた砂を払うと、制服の襟を掴み、
ぱたぱたと扇いで体に風を送り込んだ。
俺は、ブラ紐の一つでも見えねえかなあ、と期待しながら
ツンのほうを見たが、さすがプロのJKと言ったところか、そのへんの
ガードはかなり固く、鎖骨も十分に見えやしなかった、畜生。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:26:45.75 ID:Lwadbvf60
ξ゚⊿゚)ξ「あんた、今回のテスト結構ヤバかったんじゃないの?大丈夫なの?」
( ^ω^)「ヤバイなんてもんじゃないお、そろそろ僕もおまいらの後輩に
なってしまう可能性が見え始めたお」
汗でぬれた首を指でぽりぽり掻きながら、とんでもないことを
おっしゃるブーン。俺は、ここまでのんきな野郎がこの世に存在することに、
まっことに呆れかえった。
('A`)「おいおい、よしてくれよ、お前にダブられたらいよいよ俺が
一人になるじゃねえか、いいのか?俺が便所で昼飯を食う事になっても」
( ^ω^)「ドクオの事は別にどうでもいいけど、もし留年したら、
カーチャン達に迷惑をかけちゃうお、それだけは避けたいお……」
立派な心がけであるが、逆に言ってしまえば、立派なところはそれだけである。
授業をまじめに聞き、成績を上げようと努力することと、
親友に対しての心遣いが、ブーンには足りていない。
授業中に爆睡するなど、もってのほか、愚の骨頂だ。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:28:03.63 ID:Lwadbvf60
('A`)「ま、自業自得だ、ざっまっあwwwwwwwwwと言いたいところだが、
お前にダブられると俺たちも困る、せっかくの夏なんだ、
徹底的に勉強するぞ」
( ^ω^)「うぇ……お断りします(゚ω゚)」
ξ゚⊿゚)ξ「てめえお断りできる状況じゃねえだろうが」
凄みを効かせつつ、やくざの脅しそっくりに睨みつけてくるツンを見て、
のんきのパイオニーアであるブーンも流石に押し黙った。
まあ、美少女にあのような目で睨みつけられたら、大抵の人は射精か
失禁かどっちかをしてしまうだろう。
要するに漏らすことに変わりはないってことで。
( ^ω^)「はいはい、勉強します努力します本気出します、
やればいいんでしょうがお」
ξ゚⊿゚)ξ「やればいいんじゃなくて、やるしかないのよ」
ごもっともだ。数日前に、ブーンのテストの解答用紙を見させてもらったが、
どん底のさらに底、という表現が似合うほどの悲惨な点数であった。
赤丸を見つけ出す方が困難であると思われるその解答用紙を
受け取ってしまったブーンに、もはや妥協は許されまい。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:33:20.49 ID:Lwadbvf60
( ^ω^)「もうテストの話は、やめにするお……、要するに、
僕が頑張ればいい話で」
こいつはどうも、話をそらしたがる、確かに耳に悪い話ではあるが、
自分自身の話だから、ほっとけない事であるのに。
俺は思った、こいつに勉強をさせる為には、まずはこいつの中で
眠っているやる気を起こすしかなさそうだ。
しかし、おそらく宿主と違って食べ物でも釣られてくれなさそうだし、
どうしたものか。
そこまで考えて、俺は閃いた。
もしかすると、こいつは自分一人が努力するのが、嫌なんじゃなかろうか。
ブーンみたいなタイプの奴は、いつも周りに誰かしら人が居ないと、
何もできないダメなやつである、そして、それが今回の事にも、当てはまるのならば。
と、そこで突然、ツンが言葉を発した。
ξ゚⊿゚)ξ「よーするに、あんたって人は人を巻き込みたいだけなんでしょうね、
いいわ、私たちも、夏になったら本気出しましょう」
ううむ、どうやら、考えていたことは、ツンと同じだったようだ。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:38:06.19 ID:Lwadbvf60
( ^ω^)「本気、どゆことそれ?」
困惑した表情のブーンには、俺から説明することにした。
('A`)「説明しよう!ブーン君、君は、自分ばっかり勉強勉強で
辛い思いをするのが嫌なんだろう!?」
( ^ω^)「まあ、一応……」
何が一応だ、思いっきり顔に「そのとーり」って書かれてるじゃないか。
('A`)「だから、俺たちも、一緒に努力してやんよ、ってことだよ、
簡単にいえばさ」
( ^ω^)「え?mjd?」
('A`)「mjだよ」
とたんに目を輝かせるブーン。まったく、なんというか、
現金な奴というか、迷惑な奴というか。
だがしかし。
俺達は、一体何を努力すればいいのだろうか、勉強は二人とも一応
それなりに出来てるし、何よりブーンと同じ目標じゃ、
あいつが満足しないだろう。
どう設定したものか。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:41:48.94 ID:Lwadbvf60
と、次の瞬間、ツンは言った。
ξ゚⊿゚)ξ「私は、夏休みの間に、自転車に乗れるようにするわ!!」
彼女の言葉に、俺達は耳を疑った。
ツンは、いわゆるお嬢様だ。
なにがし財閥とか、そんな漫画的なお嬢様ではないにしろ、
結構な金持ち、箱入り娘、ガールインボックスである。
そんな環境に生まれたせいなのかは分からないが、
彼女は、高校生になっても、自転車に乗れないでいた。
しかし、自転車に乗れないからと言って、別に不自由に思うことも、
恥と思ったりすることも、まったくなかった。
そんなツンが、自転車に乗れるよう、努力するなんて。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:48:45.18 ID:Lwadbvf60
ξ゚⊿゚)ξ「威張るようなことでもないけどさ、私の運動オンチは
筋金入りでしょ?同じく勉強音痴のブーンが、勉強しまくろうって
逝ってんだから、このぐらいの目標はさ、設定しとかないと」
なんとなく顔を赤めながら喋るツンを見て、
俺も決心した。
('A`)「じゃあ俺、彼女作るよ!!」
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ?」
( ^ω^)「what?」
('A`)「え」
何を思っての、反応なのだろうか、これは。
無理と思ってあきらめろと言っているのか、応援してくれているのか。
さすがに後者はないか。いや、どうだか。
それにしても失礼である、仮にも友人だ、そんな人物が
一世一代の大決心をしとるというのに、もう少し、マシな
反応があったはずである。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 21:55:21.90 ID:Lwadbvf60
('A`)「お前ら俺のこと馬鹿にしてんだろ?いいよ、見てろよ!
夏休み中に黒髪ショートカットぱっちりお目目の彼女、
絶対作って見せるかんな!」
ξ゚⊿゚)ξ「が、がんばってね……」
( ^ω^)「お、応援してるお……一応」
('A`)「くそ!FACK!お前ら全員扇風機に巻き込まれて死ね!」
かくして、今日、夏の初めの日に、俺達の
本気も始まったのである。
第一話、終了
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:10:09.04 ID:Lwadbvf60
放課後街ぶら付き俺たちは風の中、というわけではないが、
俺達は放課後の駅前をただひたすら歩いていた。
アスファルトから反射される熱気が、容赦なく俺達の
体力を確実に奪っていく。額に汗がにじみ、目の前の視界は
ぐらぐらとブレていく。
( ^ω^)「あじいー」
U
ブーンに至っては、犬のようにだらしなく舌を出して歩く始末、
正直言ってこれは危ないと思う。
( ^ω^)「ドクオー、あづいいいいい」
('A`)「もうちっとしゃきっとせんかい、せめてベロは仕舞わんか」
そう言う俺も、背筋は曲がり、しきりにシャツで流れる汗を
拭いているという、かなりだらしない部類に入る行動を、
無意識のうちに行ってしまっていた。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/05(日) 22:12:00.98 ID:Lwadbvf60
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、ベロはいいけど、ヨダレを垂らすのはやめてよね、
シラフでヨダレを垂らしていいのは、キチガイと黒人だけよ」
これも暑さのせいなのか、ツンまでもが、訳の分からない
事を口走っている。どうやら皆限界のようだ。
ついこの間まで6月だと、油断し切っていたのが、今回の敗因か。
やはり夏というのは、俺たちも目の前まで迫っているのだ。
( ^ω^)「アイス食べたいおおおおお、この際ソフトクリームでもいいお」
('A`)「何がこの際なのかはわからんが、アイスが食べたいことには
同意しとくぜ」
いったい何のためにここまでして駅前を歩いているかというと、
実は今、ブーンの参考書を買いに、街一番のでかい本屋へ向かおうとしているのである。
参考書なんぞその辺の本屋で買えるだろうが、と思う人もいるかもしれないが、
ブーンの学力レベルが充分理解できる参考書は、コミックビームすら
扱っていない近所のチンケな本屋では、1つも売っていないのである。
そこで俺達は、ブーンの秘められし学力のポテンシャルを最大限までに引き出す
究極の参考書を求めて、わざわざこんな暑い中街を歩いているのである、
誠に馬鹿馬鹿しい話だ。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:15:45.48 ID:Lwadbvf60
( ^ω^)「なんか地の文で僕のことボロカスに言われた気がしたけど」
('A`)「そんなことはないんだな、たぶん」
ξ゚⊿゚)ξ「着いたわよぉ」
ツンの声でふと目の前を見る、そこにあったは真っ赤な本屋の看板、
そう、俺たちは目的地に到着したのである。
それにしても、暑さで気を失いかけながらも、ここまでちゃんと
来られるなんて、人間の脳というのは意外にしっかりできているのかもしれない。
('A`)「おおお、冷房、れいぼう、レぃぼゥ……」
室内の涼しさを求めて、すぐに自動ドアの前に走って行った俺達。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:16:26.38 ID:Lwadbvf60
ドアは、ご自慢のセンサーで俺たちを確認し、扉を開ける。
その瞬間、そよそよと、涼しい風が、俺達に優しく吹きかけられた。
('A`)「あああああああ!冷房!最高っ!」
冷え症でクーラーの涼しさを嫌う俺でも、今は違う。
どこにあるのかわからない冷房に向かって二拝二拍手一拝し、
両手を振り上げ、冷気を体中で堪能した。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとドクオ、迷惑だから、そういうのはやめなさい」
('A`)「あいあいさっ!」
書店に入ると、今まで俺の体に寄生していた汗達が、次々に
乾いていった。シャツの湿り気が失われていくその感触は、なかなか爽快である。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:18:03.43 ID:Lwadbvf60
('A`)「さて、参考書だ」
参考書が置いてある場所は、入口の店内マップですぐに知ることができた。
それにしても、こんな細かい地図があるなんて、やはり大きな書店は、
一味違うな、と俺は感じた。
それから。
参考書コーナーへまっすぐ向かおうと、頭では思っているのだけれど、
その道中にある、人の興味を巧に誘う背表紙の数々に、俺達は
何度も誘導されそうになった。
( ^ω^)「みてみて、この本すごいお!『世界大学イモ大百科』だって!」
('A`)「うるせえ!そんなの見たってお前の学力は上がらねえだろ!」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとまって、この『自宅で出来る簡単スターバックス』、
なかなか興味深いわね」
('A`)「自転車乗りたいんなら見るべきものはスターバックスじゃなくて、
オートバックスだろ!」
( ^ω^)「それもなんか違う気がするお」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:22:30.81 ID:Lwadbvf60
そんな感じで、いろいろとトラブルがありながらも、俺たちは無事に
参考書コーナーへと到着した。
そこでは、幼稚園受験から天国入居試験の傾向と対策に
至るまで、数々の参考書が所狭しと並んでいた。
('A`)「スゴイ数だな……」
ξ゚⊿゚)ξ「ここなら、ブーンにピッタリの参考書も、見つかるかもしれないわね」
( ^ω^)「あうあう、早くここから離れたいお、頭痛くなるお……」
典型的な勉強嫌いだ。
俺は嫌がるブーンを無理やり、高校用参考書の棚に引きずった。
その際、ブーンのシャツに染みついた黄色い汗が俺の手に
付いたが、親友の為だ、そんな事は全く気にならない。
というのは嘘である。本当は気色悪くて仕方がない。
それからしばらくは、俺とツンはブーンの気持ちになったつもりで、
参考書を吟味していった。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:23:33.03 ID:Lwadbvf60
ξ゚⊿゚)ξ「うん、解説も絵付きでわかりやすいわ、これは買いね」
('A`)「コレなんか簡単な演習問題がどっさり入ってて、よろしいと
思われるが」
どんどん分厚い本でいっぱいになっていくカゴを見て、
ブーンは丸い顔を青くさせた。
( ^ω^)「も、もういいお、これだけあれば十分だお」
('A`)「いいや、君がッ!頭良くなるまで!選ぶのをやめないッ!」
( ^ω^)「あううううう」
恐怖のあまり、拳を口に突っ込んでがくがく震えるブーン。
そこまで嫌なのだろうか。俺は、ブーンに無理矢理でも勉強させないと、
という気持ちを一層強くした。
コレもブーンの進級の為、愛の鞭だ。
まあ、鞭ばっか打ってる気がしないでもないけれど。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:24:31.24 ID:Lwadbvf60
('A`)「ふー、ずいぶん選んだな」
数十分後、重たいカゴを抱えて、俺たちはレジへと向かった。
その後ろを、まるで通夜の時のような表情で着いていくブーン。
俺は、ブーンの肩を叩いて元気づけようとしたが、それもまったく
効果が無かった。
ξ゚⊿゚)ξ「元気出しなさいよ、これもあんたの為なんだからね」
( ^ω^)「……小学校のさあ、夏休みでさあ、最後の8月31日に、
山のように残った宿題を見て、絶望的になったじゃん、
今あんな感じ」
('A`)「悪いけど、そこまで宿題を溜めたことが無いから分からんな」
ξ゚⊿゚)ξ「夏っぽくて良いじゃない」
そう適当過ぎるフォローをしながら、ツンはレジに本でいっぱいに
なったカゴを置いた。
店員は、丸い目をぱちくりさせ、「高校生がこんなに買ってどうすんの?」と
言いたげな表情で、会計を行った。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:26:03.55 ID:Lwadbvf60
(*゚ー゚)「ええと、計8350円になります……」
ξ゚⊿゚)ξ「一万円からでお願いします」
(*゚ー゚)「は、はい」
ツンは財布から諭吉を一枚取り出し、受け皿に置いた。
これまた驚いた表情でそれを受け取る店員。なかなか見ていて面白いが、
お嬢様とは言えツンにここまで払ってもらって大丈夫なのだろうか。
そんな俺の気持ちを読み取ったのか、ツンは振り返り、言った。
ξ゚⊿゚)ξ「お金のことなら大丈夫よ、そのかわり、成績が上がらなかったら
乳首に画鋲100刺しの刑だからね」
( ^ω^)('A`)「ヒエエエエエエ!!」
刑罰のハードさにブーンは勿論、俺までもが震えあがった。
お粗末な睾丸が、きゅんと縮み上がるのを感じる。
これは本当にシャレにならない。
だがまあこれだけ言っとけばブーンは尻に火がついたように
勉強しだすだろう、おそらく。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:27:43.47 ID:Lwadbvf60
そして、会計を済ませ、帰り道。
行きはまだ太陽が空高く昇っていたため、死ぬるほどの暑さであったが、
帰りの今は夕方、夏の涼しい風が吹き、心地よい。快適である。
小学生たちが大声をあげながらそばを走りまわり、
2匹ほどのトンボが、空をのんびり飛んでいた。
('A`)「幸せだなあ」
つくづくそう思う。
( ^ω^)「今日は皆、ありがとうだお」
突然、ブーンがガラでもないことを口走ったので、俺とツンは思わず
その場でずっこけそうになった。
ピザ体形のニヤケ男がしんみり「ありがとう」だなんて、
ギャップがあり過ぎるにもほどがある。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:31:42.74 ID:Lwadbvf60
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのよ、そんないきなり」
( ^ω^)「なんだかんだ言ってても、僕は嬉しいんだお、
こうやって、騒いで、みんなで助け合って」
お前は助けられてばっかりな気がするが、という
言葉が喉まで出かかったが、何とか封じ込めた。
今の雰囲気にそんな言葉はおかしすぎるしな。
( ^ω^)「だから、感謝の気持ちとして、今日はみんなにソフトクリームを
奢るお!喜べお!」
俺たちはまたずっこけそうになった。
なんだよそれ。
('A`)「それ、お前が食いたいだけちゃうんか」
( ^ω^)「ち、違うお!断じてそんな事は……」
ξ゚⊿゚)ξ「いいわ、ブーンの言葉に甘えましょ」
俺も、そうすることにした。
ブーンが奢ってくれることなど、この先4回ぐらいしか
無いかもしれないだろうし、楽しまなくては。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:36:08.81 ID:Lwadbvf60
( ^ω^)「みんなバニラでいいおね、じゃああそこの出店で買うお」
ブーンが指差した先には、ソフトクリームの渦巻の
形の屋根が付いた屋台が停まっていた。
ブーンは肥えた体をゆさゆさ揺らし、その場所へと走る。
( ^ω^)「おっちゃん、バニラ3本!」
( ´∀`)「あいよ、900円ね」
( ^ω^)「きゅ、きゅうひゃく…!」
ブーンが値段に驚いた間に、店のおじさんは、小さなコーンに
機械でクリームを盛っていた。哀れ、時すでにお寿司である。
( ´∀`)「はいバニラ3本。1000円からだね、はい、おつり」
おじさんはまず俺とツンにそれぞれ一本づつコーンを渡し、
それからブーンに残りの一本とお釣りの100円を渡した。
ブーンは薄い財布に100円を仕舞い、とぼとぼと哀しそうな表情で
屋台の前から去って行った。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 22:43:15.28 ID:Lwadbvf60
('A`)「うん、それなりに牛乳の味がしてうまいね」
ξ゚⊿゚)ξ「なんか量が少ない気がするけど、奢ってもらったんだから
文句は言えないわね、ありがとうブーン」
( ^ω^)「うん……それにしても、ひどいぼったくりだお!
量は少ないくせして、300円とか狂ってるお!」
ブーンは声を荒げて怒り狂う、確かに、観光地でも無いくせに
ソフトクリーム一本に300円は正気の沙汰ではない。
( ^ω^)「だから僕、勉強するお!」
その決心は素晴らしいが、ソフトクリームの話から、なぜ勉強の
話に移ったのか理解に苦しむ。
まさか、会話のキャッチボールができないほど頭が悪いわけでは
無かったはずだが。
( ^ω^)「つまり、一生懸命勉強して、頭良くなって、二度とこんなぼったくりに
引っかからないようにするんだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「なんかドラえもんで見たことあるわね、こういうオチ」
('A`)「いや、あれとはだいぶ違うだろ、辻褄あってないし」
ソフト片手にがやがや喧しく、俺達の一日は終わりを告げた。
第二話、終了