×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

( ^ω^)ブーンがポケモンになったようです 第一話

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:15:49.15 ID:51JDVT1m0
( ′ω`)「う、うぅ……」

割れるような頭の痛みに堪えかねて、男は目を覚ました。

( ^ω^)「……ここはどこだお?」

頭を上げて辺りを数回見回して、彼は呆然と言葉を零す。
だが、それも無理はない。
彼の視界に映るのは見渡す限りの緑と土色のみ。
地面の傾斜から、ひとまずどこかの山中である事だけは理解出来たが、それだけだ。

男は何故このような場所にいるのかを考えて――芋蔓を引いたかのように一つの事に気が付いた。
自分には、今に至るまでの前後の記憶が無いと言う事にだ。
いや、前後どころではない。名前を除けば、自分の経歴その他、何もかもが分からないのだ。

男は暫し放心していた様子だったが、何はともあれ、いつまでも地に突っ伏している訳にもいかない。
彼は体を起き上がらせて、やけに地面が近い事に疑問を覚えた。
更によく見てみれば、本来見えていなければおかしい、自分の胸部や足が見当たらない。
募る不安と違和感に、彼は深く覗き込むように自分の体を眺めやった。

( ^ω^)「お……?」

彼の目に、ようやく自分の胴体と足が映った。
クリーム色をしたフサフサの毛に覆われた胴体と、茶色い体毛がびっしりと生えた四本の足が。

俄かには信じがたい光景に驚愕する彼は、ふと視界の端に微かな光を感じた。
首を回してみると、そこには小さな窪みに泥水が溜まっていた。
水は濁ってこそいるものの、朧気に何かを映す程度ならば十分だろう。

男は数瞬逡巡して、しかし意を決するとおずおずと水溜りを覗き込んだ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:17:58.48 ID:51JDVT1m0
(;^ω^)「な……」

泥水の鏡に映ったのは、一片の白も見られない、つぶらで真っ黒な瞳。
襟巻きのように黄白色の毛が生えた首周りと、ウサギのような長い耳。
栗色の体毛に覆われたその姿は、どこからどう見ても獣――ポケモン、イーブイのそれだった。

水溜りに映った瞳が、大きく揺らぐ。
男ははっと息を呑んで、

(;゜ω゜)「なんじゃこりゃああああああああああああああああ!!?」

腹の底から、そう叫んだ。
絶叫に驚き鳥でも飛び立ったのか、遠くからがさがさと木の葉の揺れる音がした。

(;^ω^)「何で……、何でブーンがこんな姿に……?」

自らをブーンと呼んだ彼は、茫然自失してその場にへたり込んだ。
何故、どうして。
断片的に、疑問の言葉が頭の中を駆け巡り、繰り返される。

不意に、ブーンの背後から物音がした。
重く騒がしい、茂みを揺らすような音だ。
この上一体何事だろうかと、彼は弱弱しくも背後を振り返り、

(・(エ)・)ガオー

草薮を根から引き抜いて道を開け、彼の真後ろにまで迫った野獣がそこにはいた。
今のブーン、イーブイの身の丈では、精一杯首を上げて初めて顔が見れる程の巨体。
冬眠ポケモン、リングマだ。
細く険悪な双眸と三日月よりも尚歪曲した大口を以って、彼を睥睨していた。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:19:59.04 ID:51JDVT1m0
( ゜ω゜)「あ、あぁ……」

冬眠の名を冠するリングマだが、生憎にも山の気温は温暖極まりない。
春ならば寝起きで腹を空かせているだろうし、秋ならば冬に備えて食料を探している真っ最中だろう。
いずれにせよ、リングマの狩りを阻害する要素は、この場にはない。

突然の事に腰を抜かして動けずにいるブーンを前に、リングマは鋭い爪の並ぶ右腕を振り上げた。
リングマの爪が頂点へと達し、輝きを帯びた。
ほんの一瞬、全てが静止したかのような空白の間が訪れる。

そして、ブーンの命を刈り取るべく、リングマは右腕を振り下ろした。
彼の胸に見える輪を思わせるような、弧を描いて。
右腕はブーンの華奢な矮躯を絶命せしめるには十分過ぎるまでに加速して振り抜かれ――

しかし彼の爪は鮮血に染まる事なく、空を切った。

(-_-)「危なかったですね……。もう、何やってんですかモララーさん」

捕食者であるリングマも、被食者であったブーンさえも、何が起こったのかは分からなかった。
だが、寸での所でブーンを助けたポケモンがいたのだ。

緑色の体に、六本の足。
背にはどこか可愛らしい顔を背負っている、蜘蛛型のポケモン、イトマルだ。
ブーンが挽肉にされる直前に、彼の背に『糸を吐き』引き寄せたのだ。

(;^ω^)「モ……モララー?」

聞き慣れない名前を、ブーンは怖々しながら反芻する。

そして直後に、このイトマルは、自分を別のイーブイと勘違いして助けたのだと、理解した。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:22:02.97 ID:51JDVT1m0
(-_-)「とにかく、ここは一旦退きましょう。真っ向勝負は分が悪いです」

( ^ω^)「……こ、腰が抜けて動けないお」

(;-_-)「はぁ!? ……冗談ですよね?」

イトマルは呆れながらもブーンに目を遣って、そして彼の言葉が偽りでは無い事を悟った。
糸に引かれて、尻を上に仰向けに転がるブーンの現状は、あまりにもみっともない姿だった。

(・(エ)・)グルル……

少し遅れて事態を把握したリングマが、再びブーンと、次いでイトマルの姿を捉えた。
ただでさえ細く凶悪目を更に歪めて、憤怒の表情で二匹を睨んでいる。

(;-_-)「あー、もう……。どうしたって言うんですか、モララーさん」

半ばうんざりしたように声を上げながら、イトマルはリングマ向き直って対峙した。
逃げ切る事は不可能だと判断したらしい。
イトマルの背の顔が、鬼のような形相に変貌する。

睨み合う二匹。
先手を取ったのはリングマだった。
上体を前に倒し四足歩行の体勢を取り、図体の大きさと重さは一歩の大きさと重心移動でカバーして、
自分の四半分程の大きさしか持たない獲物二匹を叩き潰すさんと飛び掛かる。

彼の攻撃はブーンやイトマルなど一たまりもないであろう威力を有しており、だが余りにも愚直過ぎた。

イトマルはリングマの四肢が地から離れたのを見るが否や、立ち並ぶ木々に向かい糸を吐き、幾つもの蜘蛛の巣を作り上げた。
怒りに駆られ最短時間で距離を詰める事を重視するあまり、
飛び掛かると言う手段を取ってしまったリングマに、その蜘蛛の巣を避ける術は無い。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:24:04.61 ID:51JDVT1m0
(-_-)「よし……。皆、出て来い!」

リングマが蜘蛛の巣に掛かると同時に、イトマルはどこへとも無く大声を張り上げた。

直後、辺りの茂みや木々の陰から、何匹ものポケモンが飛び出してきた。
内訳はキャタピーやイトマルが数匹に、ニドランやポッポなどと言った所だ。

それがどうしたと言わんばかりに、リングマが咆哮する。
地が轟き山の斜面さえ崩れ落ちそうな唸りと共に、彼は蜘蛛の巣を力ずくで引き千切った。
進化すらしていない小型ポケモンが小賢しくも群れて歯向かって来た事が、余程気に食わなかったのだろう。

(-_-)「今だ! 虫ポケモンは全員で『糸を吐く』んだ!」

イトマルの号令に従って、虫ポケモン達が一斉にリングマ目掛けて糸を吐く。
糸はリングマの体毛や皮膚に癒着して、彼の身動きを封じていく。

(・(エ)・)グ……

リングマは体中に絡められた糸を虫ポケモン諸共振り回そうとするが、ポッポが顔面への『つつく』を繰り出し、それを牽制した。
そうして生まれた新たな隙を見逃さず、虫ポケモン達は自分に繋がる糸を、辺りの木へと巻き付ける。
如何にリングマと言えども、大地に根を張った木々を膂力だけで引き抜く事は不可能だ。
また虫ポケモンの糸はとても頑丈で、更に躍起になって暴れれば暴れる程より深く捕らわれていくのだ。

最早リングマは、ほんの僅かな挙動でさえ取れない状況に陥っていた。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:26:06.00 ID:51JDVT1m0
(-_-)「……よし、後はとどめだな。ポッポ、ニドラン、頼んだぞ」

小さく頷いて、ポッポはニドランを掴み上空へと飛んでいく。
リングマはただ、首を僅かに動かして二匹を目で追う事しか出来ない。

そして、地上のポケモン達が豆粒のような大きさに見える程の高さまで達すると、突然ポッポはニドランを地上目掛けて蹴り落とした。
ニドランは頭を下にして、段々と加速しながら落下していく。

地上で空を見上げている、リングマの頭部目掛けて、一直線に。

状況は一切変わらなかった。
リングマは動けず、ただ強張った表情で空を見上げるだけ。
ニドランも、ただ頭を、頭部の棘を真下に向けて落ちていく。

鮮血が、湧き上がった。

リングマの右目にニドランの角が突き刺さり、脳を致命的なまでに抉った。
角と目の接合部分から、ごぷりと音を立てて真っ赤な血が漏れ零れる。

幾本もの糸に磔にされたまま、リングマは絶命した。

(-_-)「うん、上出来だ。皆お疲れ」

労いの言葉に皆が頷き、

(・e・)「でもさ、ホントはもっと開けた場所でやる筈だったよね。僕が飛びやすいように。予定とは大分違うみたいだけど、どうしてだい?」

ニド‐゙ラン「そうだぜ。俺なんか落ちる時に枝が擦れて結構痛かったんだぜ」

しかし二匹が顔を僅かに顰めながら問いを発した。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:28:05.02 ID:51JDVT1m0
(;-_-)「うーん、それなんだけどね。……モララーさんが腰抜かしちゃってさ」

問いを受けて、イトマルは顔を苦くして答えた。
それから、二人に証拠を示すようにブーンの方を見遣る。

(・e・)「……マジで?」

ニド‐゙ラン「……マジっぽいな。おいおいどうしたんだよリーダー!」

ポケモン達は皆ブーンの方を見つめ、口々に心配の言葉を掛けたりしている。

(;^ω^)「おー……」

一方困ってしまったのはブーンの方だ。
彼らが先ほどから口にしている『モララー』が誰なのか、ブーンには皆目検討が付かない。
その上何より人違い――今の状況ではポケモン違いと言うべきか、とにかく誤解を解くタイミングが全く掴めないのだから。

しかし、そんな彼に漸く助け舟が現れた。

( ・∀・)「おーい皆、どうしたよ? 作戦と全然違うじゃないか……って、あれ? そちらさんは?」

山の上方から駆け下りてくる、一匹のイーブイ。
恐らく彼こそが、このイトマル達の言うモララーなのだろう。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:30:06.82 ID:51JDVT1m0
「……あれ? リーダーが2人?」

突然の事に、ポケモン達は驚き、戸惑うばかりだ。

(;-_-)「いや、よく見ればこっちはちょっと違うような……」

(;・e・)「リーダー以外にイーブイ見た事ないからなぁ……」

(;^ω^)「は、はは……」

皆の視線を受けて、ブーンは申し訳無さそうに、苦々しい笑いを浮かべた。

( ・∀・)「んー? どしたの?」

(;-_-)「その、実は……」

イトマルは少し言い辛そうに、これまでの経緯をモララーに説明した。

( ・∀・)「あーなるほどねー。そこのイーブイと俺を間違えたのかー」

( ・∀・)「……」

(;^ω^)「……」

( ・∀・)「いや、似てないじゃん。これっぽっちも。俺こんなに太ましくないし」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:32:09.05 ID:51JDVT1m0
確かに彼が言う通り、モララーはブーンよりも一回り程小さいようにも見える。

(;-_-)「よく見ればそうなんですけど、普通この辺にイーブイはいませんし……。
     そもそも僕らモララーさん以外のイーブイを見た事がなくて」

しかし他種族の、それもこの辺りでは滅多に見れないポケモンなど、見た目の違いは殆ど分からない。
人間の感覚で例えるなら、異邦人の顔の違いがとても分かり辛い事と同義だろう。

( ・∀・)「まぁ、確かにそうだな。……んで、そちらのイーブイさん、名前はなんて言うんだい?」

(;^ω^)「えと……ブーンですお」

( ・∀・)「ブーンか、変な名前だな。まるで人間みたいだ」

モララーが茶化すように小さく笑う。
まさか本当に人間ですと言ったら、どんな反応を示すのか。
ブーンはそんな事を考えたが、それよりも早くモララーが口を開いた。

( ・∀・)「まぁ色々と聞いてみたい事とかあるんだけど……とりあえずはさ、手伝ってよ」

(;^ω^)「……? 何をですかお?」

ブーンの質問に、モララーはリングマの死体を顎で指した。

( ・∀・)「あれを運ぶのをだよ。もたもたしてると他のポケモンが来るかも知れないだろ」

見てみればイトマルを初めとした他のポケモン達は、既に運ぶ準備を始めていた。
虫ポケモンが糸でネットを編み上げ、少しでも運びやすいよう死体をその上に乗せている。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:34:05.98 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「ま、食いぶちがいらないってなら話は別だけどな。折角死ぬ目に合ったんだし、食っときなって」

(;-_-)「ちょっと待って下さい。そいつにも食わせるつもりなんですか? 貴重な食料ですよ?」

( ・∀・)「だって囮の役にはなったんだし、仕事してんじゃん。いいだろヒッキー」

ヒッキーと呼ばれたイトマルは、初め信じられないと言った口調でモララーに問い掛ける。
だがモララーの言葉を聞くと、渋い表情を浮かべながらもそれ以上の反論を諦めた。

(-_-)「……それじゃ、頭の方持って下さい」

ブーンの方を向いて、ヒッキーが抑揚のない口調で指示を出した。
言われた通り、ブーンはリングマの頭へと歩み寄る。
そして周りを真似て、自分の頭を下に滑り込ませるようにして持ち上げ――不意に自分の頭から頬を伝い滴り落ちた、赤黒い液体に戦慄した。

(;^ω^)「ひゃわぁ!?」

彼が驚き飛びのいて、その為に死体は鈍い音を立てて地面へと落ちた。

(;-_-)「ちょ、何やってんですか」

(;^ω^)「血が! だって血が!」

(;-_-)「あぁ、すいません。漏れたら面倒なんで糸で傷穴は塞いでおいたんですが。でもそこまで大騒ぎする事じゃないでしょう?」

騒ぎ立てるブーンに、うんざりとした口調でヒッキーが答える。

(;^ω^)「でも、でも……」

ブーンがうろたえるばかりで進展のない現状に、ヒッキーは小さく溜め息を吐いた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:36:05.72 ID:51JDVT1m0
(-_-)「はぁ……、分かりました。血が駄目なら僕と場所を変わって、足を持って下さい」

(;^ω^)「すいませんお……」

(-_-)「いえ、しかし血が嫌いとは珍しいですね。草食ならともかく、あなたやモララーさんは雑食系だと言うのに」

不思議そうにヒッキーは疑問を漏らし、しかし元々人間であるブーンが血を恐れるのは当然の事だった。
ブーンは申し訳無さそうにそそくさと足へ向かうと、先ほどと同じく頭を下に入れて持ち上げる。

そうして皆が歩き出した方向に、彼も従って歩き始めた。
出来るだけ安定した道を選んで、彼らはどんどん進んでいく。
山の風景はブーンにはどこも同じに見えるが、モララーやヒッキー達にはちゃんとした目的地があるようだった。

どれ位歩いただろうか。

(;^ω^)「これ、どこへ向かってるんだお?」

疲労感は無いが、終わりの見えない歩みに小さな不安を覚え、ブーンは問うた。

( ・∀・)「どこって言われてもねぇ……。まぁもうちょっとだから辛抱しろって」

彼の問いは適当な答えで流されたが、モララーの言う事も一理あった。
人間達が住まう町ならともかく、こんな山中では、どこへ向かうとも言えない物だ。
仕方なくブーンは口を噤み、黙々と歩く事を続けた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:38:05.86 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「お、見えてきたぞ。あそこだよ」

モララーが指し示したのは、急な斜面に開いた大きな横穴だった。
入り口付近の土が盛り上がっている事から、恐らくは掘られた穴だ。

( ・∀・)「やーごくろうさん。こりゃまたでっかく掘ったねぇ」

穴の前まで歩くと、モララーは誰もいない空に向かって話し掛ける。

|・〇・|「いえいえ、皆は危険な仕事をして来たのですから、これ位は」

すると突然地面から生えるように何かが飛び出てきて、モララーに言葉を返した。
もぐらポケモン、ディグダだ。
たった一匹でこの洞窟と言っても遜色ない大穴を掘ったのか。
ブーンは内心で驚いた。

( ・∀・)「さて、早いとこ運び込もう。キャタピー達は辺りに悪臭を振り撒いておいてくれ」

キャタピーの触角からは、鼻がもげてしまうとさえ思える悪臭が出る。
それを振り撒くのは言うまでも無く、他のポケモン達が近寄らないようにする為だ。



リングマの死体を穴に運び入れて、ブーンはようやくその場に座り込んで一息吐いた。

(-_-)「じゃ、僕は辺りに糸を張ってきます。敵が来たらすぐに分かるように」

そう言うと、ヒッキーはすぐに穴の外へ出ていった。
イトマルが紡ぎ出し張り巡らせる糸は第二の神経と呼ばれる程敏感で、警戒用の仕掛けとしては、適当この上ない代物だった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:40:23.10 ID:51JDVT1m0
暫くすると、仕事を終えたのであろうキャタピー達とヒッキーが洞穴へ帰ってきた。
それまで寝転がっていたモララーが待ってましたと言わんばかりに飛び起きた。

( ・∀・)「やーっと終わったか。それじゃ、頂くとしようか」

彼の言葉を合図に、皆がリングマの死体へと歩み寄る。

( ・∀・)「そんじゃ、頂きます」

皆はモララーに合わせて合唱すると、がつがつと死体を食らい始めた。
キャタピーのような草食ポケモンだけは、別の食事を取る為に外へ出て行ったが、それ以外は全員だ。
その中でブーンはと言うと、

(;^ω^)「うぅ……」

輪の中の入れず、一切口を付けていなかった。

( ・∀・)「ん? おいおいブーン、遠慮なんかすんなって。どんどん食べろよ」

それを見たモララーが、死体から口を離して彼を急かす。

(;^ω^)「その……どうやって食べればいいのか……」

( ・∀・)「どうやってって……普通に食べればいいじゃん。だから遠慮なんていらないって」

モララーはブーンが遠慮しているように思えたらしく、そう答えた。
だが、実際には違う。
人間であったブーンには生の、それも死体の肉をそのまま齧るなど、どうしても抵抗があるのだ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:42:07.44 ID:51JDVT1m0
それでも、背に腹は変えられない。
ここで自分だけ食べないのは明らかに変だし、先ほどの運搬で多少の空腹感を覚えているのがブーンの本心だったからだ。

( ^ω^)「頂きますお……」

恐る恐る、死体のわき腹辺りに齧り付く。
躊躇いながらの噛み付きだった為に、毛と皮に少し歯が立っただけだった。

仕方なく、今度は力を込めて噛み、周りのポケモンと同じように毛皮を剥がした。
そうして露出した肉を、思い切って齧り取る。
血の匂いが口中に広がり、ブーンは嫌悪感に涙さえ浮かぶような思いで肉を飲み込んだ。

一連の動作をたどたどしくも何度も繰り返し、ブーンはポケモンになって初めての食事を終えた。

( ・∀・)「ふぅ、ごっそさん。思ったより減ったな」

体の二割程を失ったリングマを見て、モララーは小さく零した。

(-_-)「だから言ったじゃないですか……」

( ・∀・)「またまた、一匹増えた位じゃそんなに変わりゃしないって。皆が成長期なんだろ」

軽く笑いながら、彼はヒッキーの小言を受け流した。
そして一息吐いてから、おもむろにブーンに向き直った。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:44:05.83 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「名前は……もう聞いたな。アンタ、どこから来たんだい?」

(;^ω^)「……」

果たして何と答えたら良い物か。
ブーンが答えあぐねていると、

( ・∀・)「……いや、まぁ答えたくなかったらそれでもいいんだけどさ」

彼の沈黙を、モララーは何か訳あり故の物だと判断したらしい。
ぶっきらぼうな口調でぼやいたモララーに、ブーンは慌てて否定に掛かる。

(;^ω^)「ちがっ、違うんだお! 僕実は、記憶が無くて!」

打ち明けるならばこれが最後のチャンスだと思ったのか、彼は一気に捲くし立てた。
彼の告白に、モララーは暫しきょとんとして。

( ・∀・)「……答えなくてもいいって言ったろ? わざわざ変な嘘吐くなよなー」

顔を顰め、少々機嫌を損ねたように愚痴を零した。
だが、誤解を解くべくブーンも必死である。

(;^ω^)「本当なんですお! 僕は本当は人間で、なのに目が覚めたらポケモンになってたんだお!」

無我夢中でブーンは叫ぶ。
再び、モララーがぽかんとした表情を浮かべた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:46:11.44 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「ぷっ……くく……」

そして、不意に身を震わせ、笑い出した。

( ・∀・)「あっはっは! 何だそりゃ! 嘘じゃなくて冗談だったのかよ!」

彼に釣られて、周りのポケモン達も笑い始める。
彼らの笑い声が、今のブーンには嘲笑に聞こえて、仕方が無かった。

(#^ω^)「本当だお! 本当なんだお! 僕は人間なんだお!」

笑い声が掻き消えるくらいの大声で、ブーンは怒鳴り上げた。
一転して、洞穴の中が静まり返る。

( ・∀・)「……悪い皆。ちょっと出てってくれるか?」

暫くの間続いた沈黙を、モララーが破る。
皆は戸惑っていたが、ヒッキーが率先して出て行くと、彼らもそれに従った。

ブーンと二人きりになった穴の中で、モララーが口を開いた。

( ・∀・)「本当に嘘じゃないのか、試させてもらうからな」

試すと言う言葉に、ブーンは一瞬たじろいだが、自分に後ろ暗い所など無いのだと、すぐに自分に言い聞かせた。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:48:18.46 ID:51JDVT1m0
( ^ω^)「望む所だお」

とは言え一体どうやって試すのか。
人間世界のお約束を尺にするならば、殴り合い辺りが候補に挙がるのだが。
などとブーンが考えていると――不意に、モララーの体躯が青白く光り始めた。

一体何がと考える暇も無く、光は段々と強くなっていく。
そして彼の体は直視出来なくなるまでに輝きを帯びた。
思わず、ブーンは目を逸らし閉じる。

「さーてと」

やがてピークを超えたのか、光は徐々に収まっていった。
目を閉ざしていたブーンは、モララーの声に反応して再び目を開いた。

しかし彼の眼前にいたのは、先ほどまでのモララー。
イーブイでは無かった。

エー・∀・フィ「そんじゃ、始めますか」

洞穴の薄暗い闇の中に佇むのは、細くしなやかな体躯と、猫又を思わせる二本に分かれた尾。
太陽ポケモン、エーフィだ。
上質なビロードにも負けぬ艶を持つ毛並みと、辺りの闇色の不釣合いさが、不思議な美しさを織り成している。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:50:05.57 ID:51JDVT1m0
(;^ω^)「お……、自由に進化出来るのかお?」

エー・∀・フィ「何言ってんだ? イーブイなら当たり前……って、実は人間って話だったな」

モララーはどうにも訝しんでいる様子だったが、

エー・∀・フィ「ま、いっか。今からそこんとこハッキリさせるんだし」

すぐに普段の軽快な調子を取り戻すと、すっとブーンに歩み寄った。
しかくして覆い被さるようにして、彼の目を覗き込んだ。

男、この場合はオスと言うべきか。
とにかく同性に間近で見つめられていると言う異様な状況に、ブーンは少なからず逃げ出したい気持ちを覚えた。
だと言うのに、何故だろうか。
不思議な力に惹かれて、彼はモララーから一切目が逸らせないでいた。

モララーの額に付いた紅玉は、目が眩むような光輝を放っている。
ブーンは水になり、自分の中に何か優美な物が潜り込んで来るような夢心地の感覚に浸っていた。

エー・∀・フィ「……驚いたな」

間もなくして、モララーが消え入りそうな声で呟いた。
同時に額の閃光も消失し、ブーンには現実味を帯びた諸感覚が戻ってくる。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:52:06.23 ID:51JDVT1m0
エー・∀・フィ「アンタの言ってる事は本当らしいな。自分の名前と人間だったって事以外、心は完全にまっさらだ」

( ^ω^)「心を……読んだのかお?」

エー・∀・フィ「まぁなー。しっかし驚きだな……。てっきり冗談だと思ってたのに……」

冗談だったらどれだけ良かった事かと、ブーンは表情を苦くした。

エー・∀・フィ「まぁそう気を落とすなって。……ところで、お前さんこれからどうするつもりなんだ?」

一旦慰めの言葉を送ってから、モララーが尋ねる。
だがブーンは彼の言わんとする事が分からなかったらしく、首を傾げた。
困ったように、モララーは言葉を選ぶようにしてから、口を開く。

エー・∀・フィ「うーんとな。お前さんの心にはな、過去も無ければ未来も無かったんだよ」

説明を受けたが、やはり一向に意味が分からない。
ブーンは再度、先よりも深く首を傾けた。

エー・∀・フィ「何と言うか、大勢に流されてここまで来ちまっただろ? だからこれからどうしたいって意思が無いんだよ。
     ポケモンとして生きていくとか、人間に戻りたいとかさ。そう言うのが全く見られなかったんだ」

( ^ω^)「……僕は」

果たしてどうしたいのだろうと、ブーンは考える。
モララーの言う通り、半ば勢いに飲まれるがままに今に至った彼に、あれこれと思索する時間が無かったのも事実だ。

記憶がなく、深く考える事もないままで時間が過ぎた為に、どこか現状に慣れてしまった彼がいて。
しかし、やはり人間に漠然とした未練を残している彼もいる。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:54:39.95 ID:51JDVT1m0
( ^ω^)「僕は……」

エー・∀・フィ「僕は?」

答えを急かすように、モララーが反復する。
その額は心なしか、赤い光を灯しているようにも見えた。

そして、ブーンは答えを出した。

( ^ω^)「僕は、人間に戻りたいお。だから僕はポケモンとして生きて、ポケモンの姿でその方法を探すお」

( ・∀・)「……贅沢な奴だな」

姿をイーブイへと戻して、モララーは控えめに茶々を入れる。

( ・∀・)「ま、そうと決まったならまずは指針を決めないとな」

確かにその通りだ。
決意だけでは、現実は変わらない。
そもそもことポケモンとしての暮らしに関しては、ブーンは卵から生まれたばかりの赤子にも劣る存在なのだ。

( ・∀・)「とりあえず、広く見聞を広めないと話にならないよな。だったら、旅に出るのが一番だ」

( ^ω^)「……旅?」

意味は分かるが、いざ言われてみると確固としたイメージの出来ない言葉だ。
鸚鵡返しに、ブーンは疑問を漏らす。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:56:16.96 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「そう、自分の足一つで、世界中を練り歩くんだ。ポケモンの中にはとんでもなく賢い奴や、信じられない程長生きしてる奴がいる。
      数多の伝承もあれば、神様みたいな力を持ったポケモンもいる。そいつらの中には、お前を人間に戻せる奴だっているかも知れない」

話を聞いていて、ブーンは自分の中に光明が差し、心が躍るのを感じた。

( ・∀・)「かく言う俺も、あいつらと旅団をやってるんだ。キッツイ事の方が多い位だけどさ、やっぱり楽しいんだぜ」

その通りなのだろうと、ブーンは思う。
多くは言われなくとも、顔を見るだけで十分に伝わるほど、モララーは楽しそうに語っていた。

( ^ω^)「……どうすれば、旅に出られるんだお?」

( ・∀・)「それは今から俺が教えてやるさ。幸いにも同じイーブイだ。色んな事が教えられる」


そうして、ブーンは様々な事をモララーから教わった。

イーブイと言う種族の性質や、使い得る技。
獲物を獲る際の気配の消し方。
人間とは異なった、ポケモンの強弱の概念。
ポケモン間で使われる情報伝達の基本、足形文字。

ポケモンになっても人間の学習能力は消えていなかったらしく、ブーンは瞬く間にポケモンとしての生き方を身に付けていった。

ヒッキー達は余所者の為に一箇所に停滞する事には少し不満だったようだったが、
それでもブーンが誠心誠意頼み込むと最後は快く承諾してくれた。

そして、暫くの時が流れた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 20:58:06.01 ID:51JDVT1m0
ブーンは今、山の地面に腹這いになっている。
地面の凹凸や生い茂った草木に守られて、彼の体は誰にも視認し得ない位置にあった。

彼の双眸が捉えているのは、木々の密度が高い所に巣を張り、今は地面に降りているイトマルだ。
そのイトマルは今、ヒッキーではなく一匹の獲物として彼の目に映っている。

距離は人間の歩幅で約7歩足らず、5メートルと言った所だ。
しかし、たったそれだけの距離が、ブーンにとってはまるで砂漠の果てよりも尚長い距離にさえ思えた。

確認出来るだけでも、張られた『蜘蛛の巣』は8つ。
八方からの侵入を完全に防いでいる。
更に上手く蜘蛛の巣を避けて進んだとしても、恐らくイトマルの周辺には無数の糸が張り巡らされているに違いない。

ワイヤートラップにもなれば、敵を関知する事にも使える、攻防一体の糸が。

( ^ω^)(読み負けたら、やられるお……)

限界まで身を低くして、ブーンは心を沈め、深く思索を巡らせる。
相手に読み負けぬ程度に、極度の緊張で自分に負けてしまわぬ程度に。

やがて、彼は行動を起こした。

手始めにモララーから教わった『スピードスター』を、幾つか展開する。
モララー自身、旅の途中でとあるポケモンから教わったらしい。
驚くほど強く、それでいて美しいポケモンだったとの事だが、今は関係の無い事だ。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:00:04.73 ID:51JDVT1m0
三つの『スピードスター』をそれぞれ操作し、イトマルの右前方、左方、後方の蜘蛛の巣を引き裂いた。
この完全に同時の襲撃には、流石のイトマルも迷いが生じる筈だ。
必然的に、蜘蛛の巣のない地上の道に隙が出来る。

(-_-)(安直過ぎる……)

と言うのは、余りにも甘かった。
蜘蛛の巣の破られ方が、鋭過ぎる。
明らかに、イーブイの体が突き破った風ではない。

故にイトマルは偽の襲撃に意識を集中させながらも、地上の警戒を怠る事は無かった。
右後方の茂みに張った糸が、二本揺れた。

(-_-)(見つけた……と言いたい所だが、それもフェイクだ)

ブーンの失敗は、二つの小石を同時に投げた事だ。
物を投げる手段が口を使う他ないイーブイの体ではやむない事だが、言い訳には出来ない。

四方向からの攻撃は囮。
本命は左後方。
『スピードスター』程鋭くない衝撃を、蜘蛛の巣が捕らえた。

(-_-)「そこだっ!」

振り返りざまに、イトマルは『糸を吐く』。
彼の脳裏に、強い粘着性を持つ強靭な糸に捕らわれ喘ぐ、敵の姿が描かれる。

だが、糸が捕らえたのは敵ではなく、初手に使われた『スピードスター』によって弾き飛ばされた、ただの小石だった。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:02:06.21 ID:51JDVT1m0
(;-_-)「なっ……!」

予見と現実の差異に、一瞬イトマルの全身が、心さえもが硬直する。
そうして生まれた隙を突いて、彼の真下の地面が隆起した。

(;-_-)「しまっ……!」

頭で理解し、悪態を吐くまでは出来た。
だが、体は身動き一つ取れない。

ディグダ直伝の『穴を掘る』。
地面の下から突き上げる頭突きが、イトマルの無防備な腹部に減り込んだ。

地の下からの来襲者は、言うまでも無くイーブイだ。
宙に浮き上がったイトマルの体を『頭突き』で叩き落とし、そしてトドメを刺すべく牙を剥いて――


( ・∀・)「はーいそこまでー。よく出来ましたー」

少し離れた所から聞こえたモララーの静止によって、彼は大きく開けた口を閉ざした。
同じくモララーの声を合図に、他のポケモン達もブーン達の元へと近寄ってくる。

( ・∀・)「いやー凄いねー。イトマルを相手取って出し抜けるまでになったかー」

(-_-)「ディグダ……お前いつの間に……」

|・〇・|「すいません……。余りに熱心に頼まれたもので、つい……」

普段通り抑揚の無い、しかし確かな遺憾と小さな恨みを込めて、ヒッキーが呟く。
たじたじとしながら、ディグダが侘びを入れた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:04:11.00 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「いや、小石を弾いた事が読めなかった時点で負けだったろ。あの後なら他に幾らでも手はあったさ」

だが斟酌の無い言葉を受けると、ヒッキーは顔を僅かに苦くして押し黙った。
それはモララーの言葉に反論する事が出来ないと言う、何よりの証拠だ。

一方、当のブーンはと言うと。

(*^ω^)「おっおー、やったおー。ばんざーい!」

ヒッキーやモララーなど完全に視界の外で、一人喜び騒いでいた。

(;-_-)「あんなのに読み負けたんだ……僕」

(;・∀・)「まぁ、俺も普段はあんなんじゃん。いや、あそこまで酷くないけど。とにかくお前はよくやったよ」

割と本気で落ち込んでいるヒッキーに、モララーがせめてもの犒労の言葉を掛けた。

( ・∀・)「おいブーン」

(*^ω^)「お?」

( ・∀・)「ヒッキーはこう見えてかなり出来る奴だ。特に守勢に回った時はずば抜けてる。
      そのヒッキーを倒せたんだ。お前はもう一匹で旅に出ても十分やっていける」

浮かれ切ったブーンに、モララーは淡々とそう告げた。

( ^ω^)「お、本当かお……?」

ようやく目的への第一歩が踏み出せる。
眼前に迫ったその現実が、高揚したブーンの心を醒ます。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:06:07.95 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「あぁ本当だ。もう明日にでも出れる位だ。俺達もかなりここに長居してるし丁度いいな」

突然の事に、ブーンは戸惑いを禁じえなかった。
やはり人間的な感覚は残っているが為に、どうしても野生として目的を第一に物が考えられないのだ。

(;^ω^)「ちょ……それは気が早すぎないかお?」

駄目元で、彼は引き伸ばしを試みるが、

( ・∀・)「心配すんな。必要最低限の荷物なんかは、こっちが纏めといてやったから」

残念な事にどうやら準備は万端らしく、ブーンはとうとう旅に出られるようだ。
しかし、それは即ちモララー達との別れを意味している。
火急の勢いで進んでいく物事に、ブーンは少し付いていけないようだった。

( ・∀・)「そんでな、今夜お前に見せたい物があるんだ」

そんなブーンの心境などお構いなしに、モララーは話を進めていった。



そして、夜が訪れる。
食事を終えたブーンは、モララーに率いられ山の中を歩いていた。

木々の枝葉の隙間から垣間見える夜空には、煌々と光る満月が見える。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:08:06.80 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「お誂え向きの満月だな」

空を見上げるモララーの瞳が、臙脂色に輝いた。
同時に、月明かりによって浮き彫りにされた彼の影が、ざわりと湧き上がる。
影はモララーの体を這うように上っていき、やがて全身を覆い尽くした。

やがて影は煙のように霧散する。
闇の中から、更に深い闇が姿を現した。

不吉を齎す黒猫を彷彿とさせる、夜の闇を溶かしたような体色と、
満月の夜だけに光ると言われる体中の輪の模様が如何にも不釣合いで、奇怪なおどろおどろしさを醸し出している。

月光を司るポケモン、ブラッキー。
先日のエーフィとはまた別の進化だ。

( ^ω^)「おぉ……」

イーブイは自由に進化と退化が可能で、また複数の進化系になる事が出来る。
事前にモララーから聞かされたはいたが、実際目の当たりにすると、やはりブーンは感嘆の念を覚えた。

人間の持つイーブイとはかなり異なった性質だが、モララー曰くその理由は、環境の違いとの事だ。
バトルに使われる事が最大の目的である人間のイーブイと違い、野生のイーブイは過酷で複雑な環境で生きなければならない。
進化後の形態でいる事が必ずしも得になるとは限らないし、単一の進化系だけでは対応し切れない状況もあるだろう。

故に野生に生きるイーブイは、より多彩で高度な環境適応能力が求められる。
過去にポケモンを使った暴力団体が、実験によって進化自在なイーブイを作り出した実例があるが、
野生のイーブイはそれが素で可能なのだ。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:10:05.47 ID:51JDVT1m0
ブラ・∀・ッキ「さぁさぁ、こっちだぜ」

軽い口振りとは反対に、モララーの歩みは山道とは思えない程に速い。
呼び止めてもろくに止まってくれない為、ブーンは何度も彼を見失いそうになり、
事実彼の体に発光する模様が無ければ、ブーンは今頃迷子になっているに違いない。

ブラ・∀・ッキ「……お前がポケモンになった日、リングマを一頭狩ったよな」

言いながら、モララーは歩調を僅かに緩めた。
代わりに、辺りを見回すような動作が目立つようになる。

( ^ω^)「……? それが、どうかしたんですかお?」

肩で息をしながら、ブーンがモララーに追いついた。
モララーに倣い彼も、辺りにきょろきょろと視線を走らせる。

ブラ・∀・ッキ「俺の旅団ではさ、旅の途中の索敵は俺とヒッキーでやるんだ。んで、あのリングマは俺が見つけた奴なんだが……」

ふと、モララーが完全に足を止めた。
そうして木々の隙間にある闇の、ただ一点を見つめている。
釣られて、ブーンもそちらを見る。

(・(エ)・)……

一瞬、亡霊が現れたのかと、ブーンは戦慄した。
だが違う。
視線の先で低く轟くような呻りを上げているリングマは、確かな殺意を二匹に放っている。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:12:20.73 ID:51JDVT1m0
ブラ・∀・ッキ「実はリングマは二匹いたんだ。番でな。俺達が食ったリングマは、オスだった。メスの方は巣に篭ってるようだったから、放っておいたんだ。
     お前の為に長くこの地に留まらなきゃ、どうでもいい存在だったんだが……」

一触即発の、張り詰めた空気の中、モララーは薄ら笑いを浮かべる。
普段の軽い笑いとは明らかに毛色の違う、どこか獰猛ささえ感じる笑みだ。

ブラ・∀・ッキ「旅の恥は~じゃないけどさ、遺恨は断ち切っとかないとな。下がってろよ、ブーン」

言われるがままに、ブーンは即座にその場から飛び退く。
同時に、リングマが重々しい巨体を揺らしモララーへと襲い掛かった。

短からずあった筈の距離を、リングマはたったの数歩で埋めてしまう。
怒涛の勢いだ。

(#・(エ)・)「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

倒れ込むようにして体重全てを乗せた右腕を、モララーはリングマの股下を潜り抜けて回避した。
更に加えてすり抜けざまに左足の腱に牙を突き立て、内部を掻き回すように体全体を捻る。
体内でぶちぶちと音が鳴り、焼け付くような激痛が駆け巡って、リングマはがくりと膝を突いた。

ブラ・∀・ッキ「フゥゥ……」

口元から血を滴り流しながら、モララーは敵を睨み威嚇の唸りを漏らす。
ブーンの目には、今の彼がリングマよりも尚凶暴で巨大な獣に映って見えた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:14:05.01 ID:51JDVT1m0
(#・(エ)・)「グ……ガアァッ!」

跪いていたリングマが、突如立ち上がった。
そして振り返るや否や、今度は巨体からは想像も出来ないほど鋭利な突きを打ち出す。

だが、それもモララーには及ばない。
身を逸らし紙一重の動作で突きを躱すと、彼は突き出された右腕の上にひょいと飛び乗った。
リングマを挑発的な目つきで睨むと同時に、夥しい数の『スピードスター』を展開する。

リングマが驚愕し目を見開くが、何の意味も無い。
モララーが高く跳躍し――伸び切った腕に、あらゆる方向から『スピードスター』が叩き込まれた。

見るも無残にリングマの右腕は裂け、砕かれ、少し力を込めて引っ張ればすぐにでも千切れてしまいそうにまで破壊された。

(・(エ)・)「――――ッ!!」

聞くに堪えない悲鳴が、夜の山に響いた。

迅雷のように熾烈な猛攻は、更に続く。

モララーは場違いな程華麗に、月を背景に宙返りを経て着地する。
すると、今度は彼の影が、不自然に蠢いた。

『影打ち』だ。
影は地を這い地を離れ、リングマの右腕根元辺りを突いた。
既にボロ雑巾のように、使い物にならなくなっていた右腕が鮮血を撒き散らし、回転しながら宙を舞う。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:16:14.63 ID:51JDVT1m0
( (エ) )「ガ……グガ……」

最早リングマは、完全に戦意を喪失していた。

当然だろう。
片腕を失い、失血も酷い。
放っておいても、絶命するのは時間の問題だ。

これ以上の攻撃は、ただの徒労だ。
モララーは進化を解き、ブーンに目配せしてこの場から立ち去るとした。


帰り道、ブーンは何と言えば良いのか、分からずにいた。
あの残忍極まりない戦いを、何故モララーは自分に見せたのか。
答えを出しあぐねていると、不意にモララーが口を開いた。

( ・∀・)「……さっきの戦い、あれは野生の戦い方だ」

( ^ω^)「野生の……?」

鸚鵡返しに、ブーンが問う。

( ・∀・)「そ、野生。理性をかなぐり捨てた、ある意味一番ポケモンらしい性質だ」

理性を捨てると言う言葉に、ブーンは過度反応を示した。
確かに先刻のモララーの戦いは、酷く暴力的な物だった。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:17:13.47 ID:51JDVT1m0
( ・∀・)「野生は凄いぞ。底無しに力が湧いてくる。それに、使い方も簡単だ。本能に身を任せるだけでいい」

( ^ω^)「……でも、わざわざ見せたって事は、何か欠点があるんですお?」

本能に身を任せるだけで使える力ならば、黙っていても勝手に使えるようになるだろう。
もし何も無いならば、わざわざ見せ付ける意味はない。
間違いなく、欠点はあるのだ。それも、恐らくは致命的な物が。

( ・∀・)「あぁ……。なぁブーン、旅をするポケモンが旅をやめる時って、どんな時だと思う?」

( ^ω^)「お……? 目的を達成したり、後は死んだりとか……」

( ・∀・)「大方はその二つだが、もう一つだけあるんだ」

( ^ω^)「それが……野生ですかお?」

( ・∀・)「そう、理性を野生に飲み込まれて、野生に帰るんだ」

ふと立ち止まり、モララーは背後を振り返った。
単なる気まぐれか、ブーンを振り返ったのか、それとも先のリングマの姿を探してか、理由は分からない。

( ・∀・)「野生は単純だ。小難しい事を全部忘れて、生きる為だけに生きられる。
      その代わり、何も楽しめなくなる。食事も、空腹も、疲労感も、旅も何もかも」

( ^ω^)「……野生に飲まれない為には、どうすればいいんですかお?」

( ・∀・)「どんな時でも理性を保つ事だ。強敵と出会い、野性に頼らざるを得ない時も、根っこの部分には理性を置いておくんだ。
      勿論それだけじゃない。旅の中で訪れる苦難、怒りや悲しみ、それらからどんなに酷い仕打ちを受けても、心を折られちゃいけない」

山道を歩きながら、淡々とモララーは語る。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:19:44.70 ID:51JDVT1m0
( ^ω^)「……大変ですおね」

( ・∀・)「あぁ、大変だ。もしかしたらあのリングマの番も、元々は旅をしていたのかもしれない」

そうこう話をしている内に、洞穴が見えてきた。
見張りに立っていたヒッキーに身振りだけで帰りを告げて、ブーンは穴へ潜った。
モララーは、ヒッキーと入れ替わりに見張りに立つらしい。

( ・∀・)「……んじゃ、おやすみ」

( ^ω^)「おやすみ、だお」

恐らくは別れの言葉となる短い挨拶を交わして、ブーンは眠りについた。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:22:05.27 ID:51JDVT1m0
翌日目を覚ますと、穴倉の中にはブーン一匹だけだった。
やけに広く感じる穴の中央には、何枚かの紙切れと小さな鞄が落ちている。

紙面には、大量の足の跡が押し付けられていた。
ポケモン間での情報伝達手段、足形文字だ。
思いを込めて足跡を付けるだけでそれに意味が宿ると言う、人間のそれより遥かに優れた文字だ。

( ・∀・)『ようおはよう。悪いが俺達は先に出るとするぜ。旅が無事に続けば、またいつか会えるだろ』
    
(-_-)『とりあえず東に向かうといいでしょう。僕達の行く先とは反対方向ですが、『賢者』と呼ばれるポケモンの住む村があるらしいです』

( ・∀・)『あ、そうそう。その鞄は餞別な。四足歩行のポケモンでも使い易い、旅用の鞄だ。中身も一通り揃えてある』


様々な形の足形文字から、それぞれの言葉が伝わる。
一人ニヤニヤと笑みを浮かべて、ブーンは洞窟から飛び出した。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 21:24:17.57 ID:51JDVT1m0
東の空からは、既に僅かに太陽が顔を覗かせている。
その姿を拝んで、ブーンはめいっぱい伸びをして、一度深呼吸をした。

( ^ω^)「さて、行くかお!」

徐々に姿を現していく太陽を見据え、彼は山道を下り駆け出した。
当面の目的地は、東にあると言う、『賢者の住まう村』だ。
どこにあるかさえ分からない土地だが、それでもブーンの心は歓喜と期待に高鳴っている。

こうして元人間、現ポケモン、ブーンの旅は幕を開けた。

 

進む

戻る

TOPに戻る