- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:31:05.41 ID:cLZ6JAlP0
- 第二話『狩人の村』
ブーンが旅に出て数日が経った。
山を下りた彼は、モララーから貰った地図に従って、ひたすらに歩を進めていた。
今は丁度、中規模の森に差し掛かった所だ。
地図によると、この森の中心部には、小さな村があるらしい。
ヒッキーの言った『賢者の住む村』かどうかは分からないが、いずれにせよ立ち寄らない手はない。
モララーの足形文字曰く、村の意向や状態によっては例外もあるが、基本的に村では旅の道中より遥かにまともな生活が出来るとの事だ。
中でも顕著なものが、食事だ。
当然と言えば、当然の事ではある。
旅をしていれば、お世辞にも美味とは言えない虫ポケモンのみで飢えを凌がなければならない時もあるのだ。
事実、ブーンのここ数日の食事は半分以上がキャタピーやトランセルで、ポッポやスバメのような肉類はそうそうお目に掛かれなかった。
もっとも肉類に関しては狩りをしなくてはならないので村においても貴重かもしれないが、
木の実や虫ポケモンにしてもきちんと調理した物が食べられる分、やはり旅の道中の食生活とは比べ物にならないだろう。
それに何より、ブーンにしてみればポケモンになって、旅に出て初めて訪れる村なのだ。
既にブーンの胸中は、抑えきれない好奇心で溢れ返っている程だ。
( ^ω^)「何と言うか、我ながら暢気なもんだお」
整備も何もされていない森の中を進みながら、ブーンがぼやく。
なまじ記憶が無い所為か。彼は驚くほど順調に、自分の置かれた状況に順応していた。
初めこそ抵抗のあった生肉にしても、今やブーンの中ではご馳走にまで昇格している。
- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:33:04.91 ID:cLZ6JAlP0
- ブーン自身半ば驚いているこの適応力は、イーブイの種族としてのそれなのか、もしくは人間として持ち合わせた物なのか、はたまたその両方なのか。
ブーンはそのような疑問を抱いた。
答えは出るよしもないが、ポケモンでは決して出来ないであろう人間の立場からの思考と言うのは、彼にとって中々楽しげな娯楽となっていた。
( ^ω^)「お?」
考え事をやめ、ふと前方を見てみると、少し進んだ所になだらかな傾斜が見られた。
少しだけ足を速め、ブーンはその坂の下を見下ろした。
( ^ω^)「おぉ……!」
彼の眼下には、小さな、ポケモンの集落があった。
黒と灰の小粒な点が、あちらこちらへと動き回っているのが見えた。
家もちゃんとあるようで、木の枝葉や土の固まったような物を組み上げて作られた、住居が幾つも立ち並んでいる。
ブーンは坂を下った。
村のポケモン達に余計な警戒心を抱かせない為に、はやる気持ちを抑えてゆっくりとだ。
ただでさえ余所者なのだから第一印象はとにかく大事だと、モララーの残した手紙にも書いてあった。
▼・ェ・▼「ん?」
丁度坂を下り終えると、近くにいた一匹が彼に気が付いた。
ポケモンの種族は、上からでは黒い点としか見えなかったが、どうやらダークポケモンのデルビルのようだ。
( ^ω^)「始めまして。僕は旅をしていて、ブーンと申しますお。もしよければ少しの間、この村に滞在させて欲しいんですお」
ブーンは出来るだけ人当たり、ではなくポケモン当たりよく、穏やかな口調で話し掛けた。
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:34:18.42 ID:cLZ6JAlP0
- ▼・ェ・▼「あぁ、それはようこそ。今ここのリーダー達を呼んで来るよ」
話しかけられたデルビルは、話を聞くとすぐに頷いて、どこかへ駆けて行った。
拍子抜けする程容易く承諾された提案に、ブーンが安堵の溜め息を吐いた。
改めて、ブーンは村を眺め回した。
家の造りなどを見るに、文明レベルは、お世辞にも高いとは言えない。
もっともポケモンの村を見る事自体が始めてのブーンには、比較の対象は必然的に人間の街にされてしまう為、当然と言えば当然の事なのだが。
▼・ェ・▼「おーい、呼んで来たよー」
暫くもしない内に、先程のデルビルが、自分よりも一回り大きなポケモンを連れて帰って来た。
彼の後ろにいるのは、同じくダークポケモンのヘルガーだ。
▼゚w゚▼「ようこそおいで下さった、旅ポケさん。話は聞きましたよ。どうぞ、滞在していって下さい」
悪と炎のタイプを有し、またその名に相応しいだけの凶悪な風姿を持つヘルガーだが、
彼は見た目とは正反対に、とても慇懃な口調を以ってブーンを歓迎した。
( ^ω^)「おっおっ、ありがとうございますお」
ブーンは礼を言い、しかし一つ心に引っかかる事がある事に気付いた。
- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:36:05.54 ID:cLZ6JAlP0
- ( ^ω^)「そう言えば、さっきリーダー達って言いましたおね? 他にもどなたかいらっしゃるんですかお?」
▼゚w゚▼「えぇ、もう一匹いますよ。この村にいるのは私やデルビルだけじゃありませんからね。上からではよく見えませんでしたか?」
言われてみれば、坂の上から見下ろしたこの村には、黒と、もう一つ灰色の点が動いていた事を、ブーンは思い出した。
黒い点は、言うまでも無く彼らデルビル達だろう。
ならば灰色の点は。
などと考えている内に、一匹のポケモンが精悍とした足取りで歩いてきた。
噛み付きポケモン、グラエナだ。
陽光を受け微かに輝く灰と艶やかな黒の合わさった、雄渾な体毛から、リーダーとしての力強さを感じさせられる。
▽゚w゚▽「ようこそ旅ポケさん。何もない村だが、ゆっくりしていってくれ。村を上げて歓迎させてもらう予定だ」
( ^ω^)「それはありがとうございますお」
何の遠慮もなく、ブーンは礼を言った。
下手に遠慮しない方がいいとモララーも紙に記していたし、なにより彼自身遠慮をする程の余裕は無かったからだ。
その後ブーンは、村を見て回りたいと、リーダー二匹に提案した。
二匹はそれを快諾し、更に近くにいたポチエナとデルビルをそれぞれ一匹呼び付けて、案内役まで立ててくれた。
同時に、夜には歓迎の意を示すべく、催し物を開くとも教えてくれた。
話によると、この村は地理的な条件から、訪れるポケモンがとても少ないらしい。
故に、たまに尋ねてくるポケモンには、村を上げて歓迎するとの事だった。
正に至れり尽せりだ。
初めて訪れた村がこれとは、全く運の良い事だ。
そんな事を考えながら、ブーンは案内役の二匹に付いて村を回り始めた。
- 9 :>>8 そのつもりです:2008/11/18(火) 20:48:49.08 ID:cLZ6JAlP0
- リーダー達が言った通り、村のポケモン達は皆催し物の準備をしているようで、忙しそうにしていた。
デルビル達が盛大に火を焚き、ポチエナは何匹もが協力して、何やら乾燥した枯れ木を運んでいた。
人手、もといポケ手が足りない所には、種族など関係なしに補い合い、彼らは作業を進めている。
( ^ω^)「手際がいいですおね。慣れた物、って奴ですかお?」
▽・ェ・▽「あぁ、もうかなり長い間やってるしな」
( ^ω^)「どれ位か、分かりますかお?」
何気なく、ブーンが問うた。
特に意味や、深い意図は無い。
ただ、村の成り立ちや歴史を知る事も、旅の醍醐味の一つなのではないかと、漠然と思ったからだ。
▽・ェ・▽「うーん、そうだなぁ……」
ブーンの質問に、ポチエナは首を捻りながら、記憶を掘り起こすように唸り声を漏らす。
だが、どうやら分からなかったらしい。
彼は顔を顰めながら、隣を歩いていたデルビルに話を振った。
- 10 :>>8 そのつもりです:2008/11/18(火) 20:50:03.01 ID:cLZ6JAlP0
- ▽・ェ・▽「お前、分かるか?」
▼・ェ・▼「いやぁ、ちょっと分かんないなぁ。申し訳ないですね、旅ポケさん」
( ^ω^)「いえ、ありがとうございましたお」
数回頷きながら、ブーンは二匹に礼を言う。
精緻な答えは得られなかったが、それは相当昔からあると言う事の裏返しだ。
感嘆と感心に、ブーンはどこか気分が晴れやかになるようだった。
▼・ェ・▼「あぁそうだ。お詫びと言っては何ですが、この村の成り立ちなんか、気になりませんか?」
( ^ω^)「おっ、凄く気になりますお」
デルビルの言葉に、ブーンは揚々とした口調で返事をしたが、
▽・ェ・▽「あーダメダメ。それは夜にリーダー達が話すんだとさ」
▼・ェ・▼「あぁ、そうなのか。すいませんね旅ポケさん。夜まで待ってください」
ポチエナが割って入り、彼の好奇心は夜までお預けを食う羽目になった。
そうして、村を一通り見て回ったブーンは、村に立ち並ぶ家屋の一つを借りて、そこで夜まで眠る事にした。
元々は倉庫のような用途で使われていた所だが、状態はそれほど悪くない。
それに何より、夜になれば久しぶりのまともな食事に有り付け、己の好奇心を満たしてくれる、村の成り立ちをも知る事が出来るのだ。
抑えきれぬ期待に、ブーンは顔を綻ばせながら眠りに就いた。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:52:05.02 ID:cLZ6JAlP0
- ▼・ェ・▼「ブーンさん、ブーンさん、起きてください」
どれ位眠っていたのだろうか、ブーンは屋内に入ってきたデルビルの前足に揺らされて、目を覚ました。
催し物の準備が出来たのだろう。
ブーンは軽く伸びをして、デルビルに付いていった。
家屋の外に出ると、眩い光と何かが弾けるような音が、彼を出迎えた。
村の中央には、規則正しく組み上げた木に火を点けた、大規模な篝火が燃やされていた。
ポケモン達は皆踊り、遠吠えを上げ、村はさながらお祭りのように賑わっている。
暫くすると、ブーンの前に大きな葉を皿にしてに盛られた、食事が運ばれてきた。
色取り取りの木の実や、じゅうじゅうと食欲をそそる音を立てている肉など、これをご馳走と呼ばずに一体何がご馳走なのか。
出された料理は、どれもそう思えるような物ばかりだった。
ブーンは出来るだけがっつくような素振りは見せないように、それでも凄まじい勢いで目の前の料理を食べ始めた。
▽゚w゚▽「お気に召されたようで、何よりだ」
突然掛けられた声に、彼は口いっぱいに頬張った料理を一気に飲み込んだ。
そうして、声の主の方を見る。
黒と灰の体毛を、篝火の灯りで峻厳に照らしながら、グラエナが歩み寄ってきていた。
▽゚w゚▽「焼いた肉はどうだ? 性に合わん奴も多いんだが……」
( ^ω^)「問題ありませんお。とても美味しいですお」
生粋のポケモンならともかく、彼は元々人間なのだ。
焼いた肉は、むしろこちらの方が馴染み深い位だろう。
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:54:08.41 ID:cLZ6JAlP0
- 普通のポケモンが焼かれた肉が駄目だと言うのは、自分が初めの内、生肉に抱いていた感情と似たような物なのか。
生の新鮮さは味わえないが、それでもこの芳ばしい香りと噛んだ瞬間に口中に広がる肉汁の旨みは、生の肉と甲乙つけ難い程素晴らしいものだと言うのに。
そんな事をふと考えながら、ブーンはグラエナーの問いに答えを返した。
( ^ω^)「そう言えば、これは何の肉なんですかお?」
次いで、彼ははたと浮かんだ疑問を問い掛けた。
今まで食べてきた、リングマや野生のポッポ等とは比べ物にならないほど美味な肉だったので、つい聞いておきたくなったのだ。
もしこの先の旅で見かける事があったら逃す事無く、何が何でも仕留める為に。
▽゚w゚▽「あぁ、それはピッピだ」
ヘルガーは何気無しに返答し、しかしその答えにブーンは違和感を覚えた。
何も、あんな可愛らしいピッピになんて事を、だとか、そう言う類の物ではない。
もっと根本的に、おかしな点がある。
( ^ω^)「ピッピ……ですかお?」
▽゚w゚▽「……? そうだが、どうかしたか?」
( ^ω^)「……この辺に、ピッピがいるんですかお?」
ピッピはとても希少度の高いポケモンだ。
そんじょそこらの森に、ほいほいと転がっているようなポケモンではない。
実際、この森を歩いてくる時には、ブーンはピッピを一度も目にしていなかった。
- 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:56:02.08 ID:cLZ6JAlP0
- ▽゚w゚▽「あ……あぁ、それは……」
一瞬、グラエナが口篭り、
▼゚w゚▼「ここから少し離れた山に、ピッピが生息しているんですよ」
話に割り込むように、ヘルガーがやって来た。
彼はブーンの視線が自分に向けられた事を確認すると、顎を使って山の方向を指し示す。
そして、少しだけ顔をブーンに近づけて囁いた。
▼゚w゚▼「……出来ればこの事は、他言無用でお願いします。以前旅ポケに話した所、山が酷く荒らされた事がありまして。
我々はたまに、本当にたまに、一匹だけを頂いていると言うのに、まったくふざけた輩でした」
ヘルガーは一通り喋った後、
▼゚w゚▼「まぁ、ブーンさんはそんな事はしないと、信じていますがね」
ブーンの心証を思ってか、そう付け加えた。
( ^ω^)「勿論ですお」
なるほど、グラエナが口篭ったのは、こう言った事が理由だったのか。
ブーンは内心で納得しながら、肯定の意を示した。
( ^ω^)「あ、そう言えば」
不意に、思い出したようにブーンが呟いた。
すかさず、ヘルガーが反応する。
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:57:14.07 ID:cLZ6JAlP0
- ▼゚w゚▼「どうしました?」
( ^ω^)「この村の成り立ちを、二匹から聞けると言われたんですお」
目の前に運ばれたご馳走ですっかり失念していたが、眠りに落ちるまではずっと気になっていた事だ。
本当に教えてもらえるのかと、ブーンはヘルガーの顔色を伺う。
▼゚w゚▼「あぁ、その事ですか。えぇ、勿論お話しますよ」
快く、ヘルガーは承諾してくれた。
▼゚w゚▼「どれ位昔の事かは分かりませんが、我々の先祖達はデルビルもポチエナも、元々はさほど大きくない旅団だったのですよ」
旅団と言う言葉に小さく反応しながら、ブーンは小さく二回頷いた。
▼゚w゚▼「旅の目的は安住の地を探すと言う事だったのですが、中々そのような土地は見つかりませんでした」
( ^ω^)「……それで辿り着いたのが、ここですかお?」
▼゚w゚▼「そう言う事です。……しかし奇しくもと言いますか、全く別の旅をしてきた二つの旅団が、この土地で鉢合わせになったのです。
この森は水もあり、緑もあり、狩る為のポケモンも沢山います。安住の地としてはこの上ない好条件でした」
( ^ω^)「と言う事は……」
ある一つの可能性が思い浮かび、ブーンが言葉を漏らす。
その通りですと言うかのように、ヘルガーが一度こくりと首を縦に振った。
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 20:59:03.69 ID:cLZ6JAlP0
- ▼゚w゚▼「はい、我々の先祖は酷く争いました。ここは我らが住まう土地だ。貴様らは立ち去れ、と。
その争いはとても熾烈で、共倒れの危機さえあったそうです」
▽゚w゚▽「……だが、どちらも引く事は出来なかった。双方とも、既に不安定を極める旅には嫌気が差していたのだ」
なるほどと、ブーンが再度頷いた。
しかし、同時に新たな疑問が浮かび上がる。
( ^ω^)「……その争いは、どうやって収まったんですかお?」
いずれかの勝利を以って、と言うのは、この場合あり得ない。
今こうして、村は二種類のポケモンによって成り立っているのだから。
どちらもが納得した上で共存の道を選べるような、何か他の解決案があったのだ。
▼゚w゚▼「……ある時、第三の旅団が現れたのです。安住の地を求めるでもなく、ただ放浪の旅を続けてきた旅団が」
もしかしたら、その旅団が何か画期的な提案をしたのかも知れない。
ブーンは話の中核に迫っている事を感じ、より一層ヘルガーの言葉に聞き入った。
▽゚w゚▽「そこで我々の先祖は、お互いがお互いに提案したのだよ」
( ^ω^)「……?」
一瞬、ブーンの頭に疑問符が過ぎる。
提案したのは、第三者である旅団では無かったのか。
では一体、どんな提案が為されたのだろう。
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:01:03.64 ID:cLZ6JAlP0
- 疑問を膨らませるブーンの前で、二匹のリーダーがゆっくりと、篝火を受けてぬらぬらと照り輝く牙を除かせて、
「あそこにいる煩い旅団を狩ってしまおう。どちらが多く殺せたかで、この土地で住むかを決めようじゃないか、と」
口を開いた。
(;^ω^)「……え?」
ブーンの口から、思いがけず言葉が零れた。
高揚した気分が一気に醒め、その余りの落差に、彼は足元がいきなり消失したかのような錯覚さえ覚えた。
彼らは今、何と言った。
今までとは全く毛色の違った疑問が、頭の中で一気に膨張していく。
勿論、わざわざ反芻するまでもなく、しっかりと頭は覚えていた。
それでも尚、ブーンには先ほどの言葉の意味が分からなかった。
▼゚w゚▼「それから私達の先祖は、その旅団に襲い掛かりました。瞬く間に、旅団は殺されていきました」
動揺するブーンを完全に置いてけぼりにして、話は続けられる。
▽゚w゚▽「だが、結果は引き分けだった」
▼゚w゚▼「そして先祖は、ならば仕方が無い。次の旅ポケが来るまで一時休戦としよう。と言いました。
ですが次も、その次も狩りは同点でした」
▽゚w゚▽「そうこうしている内に、やがて争っている理由が有耶無耶になったのだろう。これが、この村の成り立ちだ」
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:03:04.79 ID:cLZ6JAlP0
- 話が終わったらしく、二匹はブーンから視線を逸らすと小さく一息吐いた。
今の今まで愕然としていたブーンは、それでも血腥い話が終わった事に安堵を覚えていた。
しかし、不意にヘルガーが、再び顔を上げて口を開いた。
そして、ブーンに告げる。
▼゚w゚▼「ですが今でも、その儀式だけは残っているのですよ。ある種儀礼的な意味合いを孕んで、今も尚」
その言葉の意味を、ブーンは一瞬の内に飲み込み、体の髄にまで溶け込ませた。
(;^ω^)「……っ!?」
驚愕と同時にブーンは大きく後退り、ほぼ同時にリーダー二匹が夜空に咆哮を響かせる。
言うまでも無く、狩りの始まりの合図だ。
▼゚w゚▼「さぁブーンさん、お逃げ下さい。この場で仕留めるのは余りに容易い事ですが、それでは狩りになりません」
▽゚w゚▽「少しの間だけ、走らせてやる。その間はどちらも手は出さない。さぁ、行くがいい」
背後で、どさりと音がした。
大仰なまでに飛び退いてブーンが音の出所を見やると、借りた寝所に置いてあった鞄が、ここまで持ってこられていた。
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:05:05.22 ID:cLZ6JAlP0
- 狩る準備も、逃がす準備も万全と言う事か。
長い話のお陰で先ほどの食事も消化されていて、行動に支障は来たさないだろう。
そこまで予測して話の尺を考えていたとしたら、それはある意味で感服に値するかもしてない。
全く、本当に至れり尽くせりな村だことだ。
頭の中で現状確認と、ほんの一握の皮肉を呟いて、ブーンは鞄に首を通し、文字通り脱兎の勢いで駆け出した。
事実イーブイの矮躯と長い耳は、狩る側からすれば本当に逃げ惑う兎のように見えていたに違いない。
坂を上り、鬱蒼とした木々の中にブーンの姿が消えると、再びリーダー二匹の遠吠えが聞こえた。
狩りの始まりだ。
何匹もの猟犬達が一斉に駆け出した足音が、荒い呼吸と草木のざわめきにも掻き消されず、ブーンの耳に届く。
(;^ω^)「まいったお……」
さて、これからどうした物か。
依然として振り向く事さえなく遁走を続けながら、ブーンは思索を巡らせる。
まず最初に浮かんだ選択肢は、このまま逃げ切ってしまう事だ。
幾ら相手が狩猟、追走に長けているとは言え、ブーンも決して走る事に不得手な訳ではない。
むしろ、その逆と言ってもいい位だ。
ブーン自身の脚力と、持ち技である『電光石火』を併用すれば、恐らく追撃者は彼に追い付くどころかその背さえ見る事は叶わないだろう。
とは言ったものの、この選択肢はどうも、現実的ではない。
地図によると狩人達の村は、丁度森の真ん中に位置するとされている。
森に入ってから村に辿り着くまでの道のりを顧みると、森を抜けるまで電光石火による全力疾走を続けるには、距離的に少し無理があった。
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:07:01.93 ID:cLZ6JAlP0
- となると、追い付かれた上で戦闘に打ち勝つか。
もしくは追い付かれ探索されて、しかし見付かる事無く身を隠す必要がある。
当然、ブーンにとって望ましい展開は後者だ。
敵を上手くやり過ごして、こっそりと森を抜ける。
だが、この作戦にも、やはり欠点がある。
森の出口に非常線を張られた場合。
また自分のいる区域が特定されてしまった場合に、そこを押しつぶすように、
人間で言うローラー作戦を展開されてしまうと、完全に詰みになってしまう事だ。
( ^ω^)(なら、どうしたらいいのかお……)
ポケモンには無い、人間の思考力をフル回転させて、ブーンは打開策を模索する。
人間の知恵と知識を以ってすれば、馬鹿な犬ころ共を出し抜くなど容易な事だ。
今から考えてみれば、村の歴史が覚えられていなかった事も、ただ単に奴等が粗暴で、過去を重んじる事の無い連中だっただけなのではないか。
苛立ちや鬱憤さえもを燃料にして、ブーンの思案は段々と深度を増していった。
幾通りもの選択肢が脳内で浮かび、それらを取捨選択していく。
( ^ω^)「……よし、やるかお」
結論を導き出したのか、ブーンは足を止めるとぽつりと呟いた。
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:09:03.34 ID:cLZ6JAlP0
-
森の中を、何匹もの狩人が駆け回る。
縦横無尽に、単独で、或いは徒党を組んで。
一点に留める事無く目を動かし、絶えず鼻をひくつかせて、獲物を追っている。
▼・ェ・▼「おい、これ……」
不意に、一匹のデルビルが、地面に逃走者の痕跡を見つけた。
茂みの奥へと続く、足跡だ。
更によく見てみれば、その足跡を辿った先の、一際大きな茂みが小さく揺れているのが見える。
▼・ェ・▼『皆、こっちだ』
にやりと猛禽な笑みを浮かべると、足跡を見つけたデルビルは、彼らの特性である同種間のみに通用する鳴き声を上げた。
するとポチエナ達に気づかれないようにそれと無く、他のデルビル達が彼の元へ近付いてくる。
そして目配せによって、微かに揺れ動く茂みがデルビル全員に知らされた。
彼らは一斉に息を吸い込み、八方から茂み目掛けて『火の粉』を吹いた。
一瞬の内に茂みは燃え上がり、形さえ残らず炭になり崩れ落ちた。
デルビル達の口元が嫌らしく歪み――不意に、炎を不自然に揺らいだ。
燃え盛る炎の中から、視界を覆い尽くす程の鋭利な閃光が放たれる。
ブーンの得意技とも言える、モララー直伝の『スピードスター』だ。
完全に虚を突く形で打ち出されたそれを、油断しきっていたデルビル達に防ぐ術は無く、
彼らは皆スピードスターに足を深く抉られ、その場に無様に倒れこんだ。
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:11:03.77 ID:cLZ6JAlP0
- 何故、炎の中から突然スピードスターが放たれたのか。
種を明かせば、単純な事だ。
まず彼らが茂みを見つけた時点で、ブーンはその中に居などしなかったのだ。
茂みに向かう足跡を付け、更に茂みの中にスピードスターを潜ませると、そこから数歩下がり、どこか別の茂みへ飛び込んだ。
俗に言うバックトラップを仕掛け、自分は狩人達が罠に掛かるのを別所から見張っていたのだ。
かくして今、彼は目論見通りに、追跡者達の足に致命的な損傷を負わせる事に成功した。
中途半端に昏倒させた所で、逃亡が長引けばそれらは再び狩りに参加してくるだろう。
ならばいっそ、二度と使い物にならない位に足を破壊してしまおう。
ブーンの下した判断は、そうだった。
( ^ω^)「ちょっとえげつないけど……でもこれなら……」
樹上から、のた打ち回るデルビル達を見下していたブーンは少しだけ申し訳ない気持ちになり、しかし新たな行動に出るべく目を逸らした。
この辺りに仕掛けたバックトラップは、一つだけではない。
見てみれば、他の所でも相次いで、罠に掛かっている狩人達がいた。
順々に、ブーンは罠の中に仕掛けたスピードスターを放ち、それらの脚部を破壊していく。
暫くの間、ブーンが罠を仕掛けた一帯には阿鼻叫喚が絶えず響く事になった。
やがて周囲が静かになると、ブーンはなるべく音を立てないように樹上から飛び降りた。
そして素早く場所を変え、再び身を隠し罠を仕掛ける。
引っ掛かった者が仲間に告げているだろうから、バックトラップはもう使えない。
別の罠を張る必要があった。
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:13:04.25 ID:cLZ6JAlP0
- 一方狩る側のポケモン達は、味方から受けた罠の報せに、警戒を強めつつ探索をしていた。
今までも反撃に出てくるポケモンは多々いたが、こうも計画的に、一方的な反攻をしてくるポケモンは一匹たりともいなかったのだから、尚更だ。
すると突然、森の中に広がる草むらが、小さく揺れた。
狩猟者達が瞬時にそちらを見遣り、しかし同時に罠である可能性を考える。
だが、今度は話に聞いた風とは違った。
揺れは断続的に続き、逃げるように遠ざかっていく。
( ^ω^)「……っ!」
更に決め手として、揺れた草の隙間から、イーブイの長い耳が垣間見えた。
最早間違いない。
罠ではなく、奴は逃げている。
確信すると、皆が我先にとブーンを追い始めた。
しなやかな筋肉が一層引き締まり、脚力と言う燃料を一気に爆発させるように、彼らは加速する。
猟犬であり、狩る側に生きる動物の走りだ。
次第に、ほんの僅かに、本当に少しずつだが、距離が詰められていく。
今度こそ捕らえた。後は、どちらが仕留めるかだけだ。
そう、皆が思った瞬間だった。
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:15:04.22 ID:cLZ6JAlP0
- 「――ぎゃぁ!」
走る群れの中から、叫び声が生まれた。
不意に襲い掛かった痛みに思わず上げてしまったような、喉の奥から吐き出された絶叫。
続けて、新たに幾つかの悲鳴が重ねられる。
仲間の危機と、それ以上に原因不明の危険に恐怖し、追走者はこぞって足を止めた。
( ^ω^)「……地雷原にようこそだお」
その事を確認すると、ブーンは自らも同様に立ち止まり、振り返った。
( ^ω^)「と言っても、地雷が何だか分からないかお。地雷って言うのは、まぁ簡単に言えば地面に埋まっていて踏めば凄く痛い物だお。
痛いだけじゃなくて、大抵は五体も不満足になっちゃうお。凄く怖くて嫌な物だけど、僕の体が不満足になる訳じゃないから使わせてもらうお」
ブーンは早口に説明すると、
( ^ω^)「だから君達は、そこから動かない事だお。でないとそこで転がってる何匹かみたいに、足が無くなっちゃうお」
目の前で立ち竦む全員に、そう忠告した。
ブーンが顎で指し示した先には、左足首から先がどこかへ転がっていってしまったポチエナがいた。
埋められていた地雷――出来得る限り鋭利化したスピードスターを、全力で踏み付けたのだ。
無理も無い。
狩人達はただでさえ黒や灰色をしている顔を更に青く染めて、その場で固まった。
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:17:03.98 ID:cLZ6JAlP0
- ( ^ω^)「……まぁ」
ぽつりと、呟くブーン。
( ^ω^)「止まったなら止まったで、五体不満足になるんだけどお」
言うや否や、地面に埋められていたスピードスターが急浮上した。
そして生い茂る草を切り散らしながら、動かぬ的となった狩人達へと飛来して――やはり一本ずつ、彼らの足首から先を刈り取った。
痛哭が、木霊する。
声を聞き付けて他の狩猟者が来る前に、ブーンはその場を立ち去った。
これで大分、数を減らせた筈だ。
再び姿を隠しながら、ブーンは考える。
村は盆地のようになっていて、それ程大きくは無かった。
明確に何匹いたかまでは流石に数えていないが、それでも決してそう多くはない筈だ。
とすれば、今まで行動不能にしてきた者の数を考えると。
( ^ω^)「多くてもあと、半分くらい……もっと少ないかお?」
予測は出来るだけ最悪に近い方がいいとは言うが、それを踏まえた上でも、ブーンは既にかなりの数を仕留めている。
残りはほんの僅かだろうと、彼はそう予測を立てた。
( ^ω^)「それじゃ……そろそろ行くかお」
何の感慨も無さそうにぼやくと、ブーンは『一際目立つ大きな足跡2つ』を探り、追い始めた。
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:19:05.18 ID:cLZ6JAlP0
-
▽#゚w゚▽「――クソッ!」
森の中に広がる惨状を目の当たりにして、グラエナは思わず顔を歪め、悪態を吐き散らした。
あろう事か、ポチエナもデルビルもほぼ全員が返り討ちに遭っている。
しかも皆、狩りをする者の命とも言える足を破壊されていた。
自然な治癒など、およそ望めない程に。
まさかこれ程までに腕が立つ旅ポケとは、思ってもみなかった。
ポチエナもデルビルも、最早無事なのはリーダーの周りに置かれた連中のみだ。
▼゚w゚▼「参りましたね……。まさかこれ程だとは」
▽#゚w゚▽「わざわざ口に出すな……。余計憤懣が溜まる」
▼゚w゚▼「まぁそう荒れずに。……どうです? 最早手遅れとも言えますが、ここは一つ共同戦線を組みましょうよ」
グラエナとは正反対に冷静かつ謙虚な口ぶりで、ヘルガーが提案した。
▽#゚w゚▽「なんだと……?」
言葉を聞いて、グラエナが露骨に顔を顰めた。
彼の声色は酷く荒々しく、今にも首根っこに噛み付いてきそうな迫力があった。
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:20:06.98 ID:cLZ6JAlP0
- ▼゚w゚▼「ですから、このままではどちらも全滅なんて馬鹿げた事になりかねない。そうなる位ならいっそ、手を組みませんかと言っているんです」
そんな彼を宥め賺すように苦笑いを零し、ヘルガーは言辞を付け足した。
しかし、その行為が尚更にグラエナの反感を買った。
グラエナは本当に、今まさにヘルガーに襲い掛からんと言うまでに身を低くして、
「ぎゃっ!」
「ひぃぃ!」
突如響き渡った幾重もの悲鳴に体をびくつかせ、思い留まった。
慌てて周囲を見回すと、自分とヘルガーの周りにいた配下達が、全員倒れて蹲っている光景が、彼の目に映った。
全員、足を失っていた。
▼゚w゚▼「……で、どうしますか? 恐らく最後になります。手を組みましょう」
口調は一切変わらず、しかし明らかに焦燥と緊迫が入り混じった表情で、ヘルガーがグラエナを見つめた。
▽゚w゚▽「……」
グラエナは一瞬だけ考えるように下を向くと――出し抜けにヘルガーに飛び掛かった。
不意を突かれたヘルガーは面白いように吹っ飛んでいき、
( ^ω^)「……っ!」
彼が一瞬前にいた地点を星型の光が駆け抜けていった。
グラエナの黒い毛が数本、宙を舞う。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:22:08.60 ID:cLZ6JAlP0
- ▽#゚w゚▽「……狩りは完全に失敗だが、貴様だけは逃がさんぞ。……聞こえているか? 木の上でのんびり余裕を扱いている貴様に言っているのだ」
ブーンの潜む位置を的確に言い当て、そちらを睨みながらグラエナは言った。
遅れて、軽く礼を言いながらヘルガーが体を起こす。
そして深く息を吸い込むと、デルビル達の『火の粉』とは比べ物にならない『火炎放射』を、グラエナが視線を向ける木へと繰り出した。
(;^ω^)「うわっちゃっちゃ!」
半ば転げ落ちるように、ブーンは燃え上がる木から退避し、飛び降りた。
一匹の旅ポケと、二匹のリーダーが、対峙する。
( ^ω^)「……一応言ってみますお。見逃してもらえませんかお?」
いけしゃあしゃあと、ブーンは言ってのけた。
( ^ω^)「あなたの言う通り、狩りは失敗ですお。だから、ここで僕を殺しても、お互い何の得もありませんお」
二匹はブーンの提案を黙って聞いていたが、我慢が限界に達したのか、突然グラエナが牙を剥きブーンに飛び掛かった。
喰らってしまえば恐らく喉笛を噛み千切られるであろう襲撃を、ブーンは『電光石火』で腹下を潜り抜けて躱した。
( ^ω^)「やっぱ駄目ですかお?」
▼゚w゚▼「まぁ、成り行き上、そのようですねぇ」
答えを返したのはヘルガーだった。
更に間髪入れず、軽く跳び上がると同時に炎を吹いた。
炎は巨大な螺旋を描きつつ、為す術一つ与えず、あっと言う間にブーンを取り囲んでいく。
傍目には火柱か、あるいは亭々と聳え立つ塔のようにも見える『炎の渦』が、ブーンの動きを完全に封じていた。
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:24:09.67 ID:cLZ6JAlP0
- 視界は完全に朱色の壁に覆われ、反撃する事は叶わない。
また無理に抜け出そうとすれば、重いダメージを負う事は必至だ。
かと言ってこのまま火が消えるまで待つなどと悠長な事をしていれば、それこそ丸焼けになってしまう。
▼゚w゚▼「さて、と……今の内ですね」
炎の渦を決めただけでも十分に有利には違いない。
しかしヘルガーはグラエナに目配せすると、深く暗く、思考を研ぎ澄ませていった。
何か『悪巧み』をしているに、違いない。
やがてお互いに準備が整うと、二匹のリーダーは同時に技を繰り出した。
ヘルガーは先ほどとは比べ物にならない火勢の火炎放射を。
そしてグラエナは敵意と殺意に破壊力を与えたかのような『悪の波動』を。
燃え盛る炎の渦に、二つの攻撃が命中する。
中にいた者は、間違いなく無事ではすまないだろう。
そう、中にいた者は。
▽;゚w゚▽「ぐあぁ!?」
突如、グラエナが叫喚を上げた。
苦悶の表情を浮かべて、がくりと膝を突いている。
地面には微量だが血が流れ、その出所は、右の足首からだった。
彼の右足首には深々と牙が突き立てられている。
筋肉は裂けて楕円型の穴が開き、走る為に必要不可欠な腱が完全に食い千切られていた。
地面から生えた、イーブイの生首によって。
- 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:26:07.99 ID:cLZ6JAlP0
- ( ^ω^)「凄い『炎の渦』だったけど、流石に地中にまでは及ばなかったおね」
言いながら、ブーンは穴から全身を出した。
ディグダ直伝の『穴を掘る』で、彼は炎の渦を脱出していた。
念の為に、最早行動不能となってはいるが、グラエナから距離を取る。
これで残るはヘルガーだけだ。
ブーンが再び臨戦態勢を取り、
▼゚w゚▼「いや、参りました。降参です」
しかしヘルガーは、いとも簡単に降参を宣言した。
真っ先にグラエナが、そしてブーンも少なからず、驚愕する。
▽#゚w゚▽「な、貴様どう言うつもりだ!」
怒りを露わにして、グラエナが我鳴り立てる。
だがヘルガーは彼の声を全く聞こえていない物として無視すると、これまで通りの慇懃な口調でブーンに話し掛けた。
▼゚w゚▼「先ほど貴方は言いましたよね? お互い何の特にもならない、と。まったくもってその通りです」
もっともらしく、ヘルガーは大仰に頷いてみせた。
▼゚w゚▼「だから、ここで取引しましょう。私は村の代表として、貴方に償いの品を送ります。
代わりに貴方は、私を見逃してくれさえすればいい。どうです? 悪くないでしょう?」
( ^ω^)「……割りに合わないんじゃないかお?」
ブーンの問いに、ヘルガーはこれまた大袈裟に首を横に振った。
- 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:28:02.13 ID:cLZ6JAlP0
- ▼゚w゚▼「いえいえとんでもない。元はと言えば我々が仕掛けた事です。甘受しましょう。それに……」
一旦言葉を切って、ヘルガーは前方で無様に倒れているグラエナを、微かに顎を上げて俯瞰した。
嘲笑するかのような視線に、グラエナは苦痛の面持ちに、更に苛立ちを加えて顔を顰めた。
▼゚w゚▼「これでポチエナ族は完全に役立たず……。私一匹がリーダーとなれる訳ですしね」
▽#゚w゚▽「貴様ぁぁぁぁ!」
歪んだ笑みを浮かべるヘルガーに、グラエナは怒号を上げ、けれどもそれ以上は何一つとして出来なかった。
▼゚w゚▼「どうです? 悪くないでしょう?」
先程と同じ言葉を繰り返すヘルガーに、
( ^ω^)「そうですね、悪くありませんお」
鸚鵡返しに、ブーンは答えた。
ヘルガーの表情が、ぱっと明るくなる。
▼゚w゚▼「そうでしょう! それでは早速……」
( ^ω^)「だが断る」
意気揚々と話を進めようとするヘルガーに、ブーンはたった一言、叩き付けた。
- 38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:30:08.46 ID:cLZ6JAlP0
- ▼;゚w゚▼「……は? それは一体……」
唖然とした、呆気に取られたヘルガーが、完全に足を止めた。
四足歩行のポケモンでは何と言えばいいのか分からないが、人間で言うならば間違いなく棒立ちと言った状況だ。
刹那、地面に掘られた穴から、鋭利な閃光が溢れ出した。
ブーンが『炎の渦』から逃れる為に掘った、あの穴からだ。
ヘルガーがその事に気が付いた時には、既に全てが手遅れだった。
掘られた穴、トンネルを通ってヘルガーの付近にまで運ばれたスピードスターは、
驚異的な速度でヘルガーへと飛来し、彼の後ろ右足をすっぱりと刎ね飛ばした。
切り離された足首がドス黒い血を撒き散らしながら回転し、どさりと言う音と共に茂みの奥へと落ちて、見えなくなった。
激痛と驚愕が入り混じった悲鳴が、辺りに響く。
( ^ω^)「……すいませんお。元から、このつもりだったんですお」
のた打ち回るヘルガーの様子など全く気に掛けていない様子で、ブーンは語る。
( ^ω^)「僕が普通に逃げても、あなた達はまた同じ事を繰り返しますお。だから、二度とこんな馬鹿げた事が出来ないようにさせてもらいましたお。
この森のポケモン達は総じて弱いから、駄目になった足でも狩れる筈ですお。
でも、そこそこ腕の立つポケモンには、決して勝てないし追いつけないようにさせてもらいましたお」
至極淡々とした口調で、ブーンはそう言った。
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:32:05.12 ID:cLZ6JAlP0
- ブーンが全てを喋り終えても、二匹のリーダー達は何一つとして言葉を発そうとはしなかった。
( ^ω^)「……とは言え、普通の狩りにしても今までよりは大変になりますお。
だから、今まで以上に『仲良く』暮らして下さいお。勿論外部のポケモンなんかにも同じですお」
仲良く、と言う単語を殊更に強調して、ブーンは二匹に向けてにっこりと笑い掛けた。
( ^ω^)「返事はどうしましたかお?」
笑みを一切崩さぬままに、ブーンは問い掛けた。
「……はい」
二匹のリーダーはとても情けない口調で、そう返事をした。
- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:34:08.55 ID:cLZ6JAlP0
- しかくして、ブーンは初めて訪れた村、狩人の村を後にした。
彼の鞄は村に入った時の数倍に膨れ上がっている。
二匹のリーダー――主にヘルガーがやたらと念を入れていたが、謝礼の品を大量に寄越したのだ。
ブーンの名誉の為に明記しておくと、彼は決して村のポケモン達を脅したりはしていない。
本当に、ヘルガー達がせめてものお詫びだと言って、くれただけなのだ。
( ^ω^)「本当にお世話になりましたおー」
ブーンの気の抜けた挨拶を、村のポケモン達は全員強張った笑顔で見送った。
暫く歩いて森を抜けると、そこからは鮮やかな緑と、綺麗に踏み鳴らされた道があった。
いずれも、陽光を受けて綺麗な輝きを放っている。
地図を見てみると、また少し進んだ所に村があるらしい。
今度は一体どんな村なのだろうか。
出来れば、命が危険に晒されない程度には安全な村であって欲しい。
そんな事を願いながら、ブーンは揚々とした歩調で再び歩き出した。
- 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/18(火) 21:35:26.40 ID:cLZ6JAlP0
- これで第二話の投下は終了です。
支援やレスを下さった皆さま、ありがとうございました。
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