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( ^ω^)がポケモンになったようです 第三話

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:00:04.27 ID:0sofPTDo0
『賢者の住まう村』

一本の道を、一匹のポケモンが歩いていた。
種族はイーブイ、名前はブーンと言い、背中には旅用の鞄が背負われている。

( ^ω^)「お……」

もう大分長い事歩いているのか、彼は一旦立ち止まり、退屈そうに一つ、噛み殺すような欠伸をした。
昇りかけの太陽が見える東の空を見上げながら、ブーンは再び歩き出した。


それから暫くの時間が流れた。


(;^ω^)「おー……」

一本の道を、一匹のポケモンが歩いていた。
種族はイーブイ、名前はブーンと言い、背中には旅用の鞄が背負われている。

既にかなり長い事歩いているらしく、彼はうな垂れて、うんざりとした声を口から垂れ流した。
完全に昇り切った太陽から降り注ぐ光を頭上に受けて、ブーンは何か日陰は無いものかと辺りを見回した。

視界に入るのは、右も左も異様に整った道と、揺れ動く鮮やかな緑の草むらだけだった。
がっくりと頭を下げて、諦めたようにブーンは再び歩き出した。

それから更に暫くの時間が流れ、ブーンはなだらかな傾斜に差し掛かった。
上りになっている為、坂の向こうは上りきるまで見る事は出来ない。
その事に気付くと、ブーンは僅かな希望を抱いて坂を駆け上がった。

坂の頂点から見えたのは、月明かりによって微かに光を帯びた、相変わらず長々と続く道だけだった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:02:03.37 ID:0sofPTDo0
(;゜ω゜)「ぬ……おおおおおおおお!」

誰かが聞いていれば気でも触れたのかと思われるであろう声量で、ブーンは怒気を孕んだ叫び声を上げた。
どれだけ歩いても、見えてくるのは道と草。
しかも絶望的な事に、一日中歩き通して尚道は延々と続き、終わりさえ見えてこないのだ。

旅をしていれば当然あり得る事なのだが、こうも景観に変化がないと、流石に飽きが来ると言うものだ。
道の状態が異様に良いので歩き疲れる事は無かったのが、せめてもの救いか。

こんな事ならば、森を出てすぐの所にあった岐路で、もう片方の道を選ぶべきだったとブーンは内心で毒づいた。
だが途中で出会った旅ポケによれば、『賢者の住まう村』はこちらの道の先にあると言うのだから、それは出来なかった。

( ^ω^)「仕方ないお……。今日はこの辺で野宿かお……」

小さく溜め息を吐くと、ブーンは道を外れて草むらに入ると、適当な場所にテント――と言っても、何本かの棒に防水性の布を掛けるだけの物を張った。
こう言う時に、四足歩行のポケモンはすこぶる不便だと、彼は心の中で愚痴を零した。

多少窮屈なテントの中で、ブーンは鞄の荷を開く。
まず目に入ったのは、『狩人の村』で謝礼として貰ったピッピの肉だ。
元々は保存の為、ポチエナの『氷の牙』で凍らせてあったのだが、長期に渡って持ち歩けるようにと、今は燻製にされている。

このピッピの肉が、また大変な悩みの種となっていた。

デルビルの話では、このピッピの肉は村の近くにある山から獲ってきた物だと言われていた。
だが後から聞いた所、本当はあの村を訪れて、そして狩られてしまった旅ポケ達の肉らしい。
旅ポケを殺し、その肉を凍らせて新たな旅ポケに振る舞い、また殺してと。
あの村ではそんなループが、これまでずっと繰り返されていたらしい。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:04:03.81 ID:0sofPTDo0
そうして今ブーンが悩んでいるのは、果たしてこの肉を食べるべきなのか、否か、である。
現実的に考えれば、彼の目の前に転がる薄紅色の塊は、あくまで『ピッピだった』物であり、食べてしまっても何ら問題は無い筈なのだ。
しかし一方で同じ旅ポケを、それも恐らくは志半ばで旅を終える事になった者を、本当に食べてもいいのだろうかと言う疑問を、ブーンは抱いていた。

( ^ω^)「……」

彼は悩みに悩んで、結局燻製肉から目を逸らした。
どうせ腐る事は無いのだ。
別に今焦って決める事も無い。

合理化された言い分を自分に言い聞かせると、ブーンは燻製の代わりに干して乾燥した木の実に目を遣り、それを齧り始めた。


夜が明けて、朝が訪れた。
一晩あけても、相変わらず道は長いままである。

簡易テントを片付けると、ブーンは長い道のりを確認した。
そしてするんじゃなかったと、若干後悔しながら道を歩き始めた。

( ^ω^)「……暇だおー」

ひたすらに続く道を一定のペースで進みながら、ブーンが小さくぼやいた。
余りにも暇が高じると、普段では目も向けないような所にも、着眼する事が出来る。
今のブーンの状態は、まさしくそれだった。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:06:02.30 ID:0sofPTDo0
考えてもみると、こうも長ったらしい道程の先に、本当に村があるのだろうか。
『賢者が住まう』と噂が立っている以上、無い筈はないのだが、それにしてもすこぶる交通の便が悪い。
幾らなんでも、これでは訪れる者も多くはないのではないかとさえ思えてくる。

( ^ω^)「……でも、その割には地面が異様にしっかりしてるんだお」

一度立ち止まって、ブーンは後ろ足で数回地面を蹴った。
硬く確かな感触が、返ってくる。
間違いなく、今まで歩いてきた中で最も素晴らしい地面だ。
一体何匹のポケモンが歩いたら、こうまで歩きやすい地面が出来上がるのか。

相反する二つの疑問が、頭の中をぐるぐると回り続ける。

( ^ω^)「……お?」

不意に足元に違和感を覚えて、ブーンは考え事を中断した。

微かに、本当に微かにだが、地面が揺れていた。
しかもその揺れは、段々と大きくなっている。
ブーンは初め震度の低い地震かと思ったが、どうやらそれは違うようだ。

数分が過ぎて、揺れは尚も続いていた。
幾らなんでも長すぎる。
その上揺れは弱まるばかりか、段々と強くなっていく一方だった。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:08:03.24 ID:0sofPTDo0
そこで、ブーンは更にもう一つの違和を感じた。
揺れが強くなるにつれて、何かの音が近付いて来ていたのだ。
よく聞いてみると、その音は地響きのようにも聞こえる。

( ^ω^)「……まさか、何かが近付いて来てるのかお?」

まさかと思いながらも、ブーンは今まで来た道を振り返った。

青いうねりが、彼の視界に映りこんだ。
信じられない程巨大な――恐らくはポケモンであろう存在が、瀑布の如き勢いで道を走ってきている。

(;^ω^)「な、何だおあれ!」

ブーンが狼狽するのも無理はない。
迫り来る青いうねりは、ポケモンである事を考えても、余りに大き過ぎるのだ。
凶悪の名を冠するギャラドスでも、あれ程までに大きくはないだろう。

何せ彼の存在は、決して狭くは無いこの道を完全に覆い尽くし、青に染めてしまっているのだ。
まったくとんでもない巨躯だ。
もし万が一轢かれでもしたら冗談ではないと、ブーンはまだ距離があるにも関わらず慌てて道を外れて草むらに潜り込んだ。

あれが一体何者なのかは分からないが、目を付けられでもしたら事では済まない。
隠れていて、損は無かった。
やがて地響きが近付いてきて、ブーンは思わず草むらに隠した我が身を縮こめた。

そして、

(;^ω^)「……ッ!」

彼のすぐ傍で、地響きが鳴り止んだ。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:10:03.50 ID:0sofPTDo0
冷たい汗が、ブーンの全身から噴き出した。
言いようの無い恐怖が、彼を取り囲む。

「おいアンタ」

まだ見付かってはいないのではないか。
密かに抱いていた淡い期待も、無情なる呼び掛けに打ち砕かれた。
完全に、気付かれている。

どうする、戦うべきか。
あんな規格外の存在を相手に、馬鹿げている。
自殺行為だ。

ならばどうすればいい。
逃げ出すべきなのか。だが、一体どこに。
前にも後ろにも、あるのはどこまでも続く一本道と広大な草むらだけだ。

それでも、やる他に選択肢は無かった。
まだ、旅は始まったばかりだ。
こんな所で終わらせる訳には、絶対にいかないのだ。

(;^ω^)「……」

不意を打って飛び出して、両目にスピードスターを打ち込んでやろう。
そしてその後は、決して振り向く事無く力尽きるまで遁走するのだ。
単純だが今打ち得る最善の手を思い描き――ブーンは凄まじい瞬発力を発揮した。
限界まで先鋭化したスピードスターを二つ展開しつつ、彼は鋭敏な動きで草むらを飛び出して――彼の視界に、無数の真っ赤な瞳が映った。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:12:03.24 ID:0sofPTDo0
(;´_ゝ`)「うぉ、何だいきなり!」

直後に、情けない声が上がる。
ブーンが呆気に取られながらも、声のした方向に目を向ける。
青く金属的な光を放つ体に、真紅の眼球。
鉄爪ポケモンのメタングが、『群れ』の先頭に立っていた。

よく見てみると、青いうねりは一匹のポケモンではなかった。
鉄球ポケモン、ダンバルが群れを作って行進しているだけだったのだ。
ただその行進が余りにも精緻で、一糸乱れぬ動きを保っていた為に、遠目には本当に一匹のポケモンに見えたのだった。

( ´_ゝ`)「ちょいちょいアンタ、とりあえずその物騒なヤツをしまってくれよ。そんで、乗るのかどうかも答えてもらいたいね」

( ^ω^)「おっ、すいませんお。……乗るってのは、どう言う意味ですかお?」

体の左右で浮遊しているスピードスターを消し去ると、ブーンはどうにも理解出来なかった疑問を口にした。

( ´_ゝ`)「どう言う意味かって……。あ、アンタもしかして、ずっと西の方から来たのかい?」

( ^ω^)「はい、そうですお。でも、それがどうかしたんですかお?」

( ´_ゝ`)「いや、西の方から来たのなら知らなくても当然だと思ってね。アンタ、賢者の住まう村に行きたいんだろ?」

ブーンは一瞬何故分かったのかとも思ったが、直後に、こんな長い道を好き好んで歩くのはそれぐらいしかいないだろうと言う事に気が付いた。
頷いて、彼は肯定の意を返した。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:14:02.19 ID:0sofPTDo0
( ´_ゝ`)「そうだろう。だったらこのダンバルに乗るべきだ。俺達は今から、その賢者の住まう村に帰るんだからな」

( ^ω^)「おっ、賢者の村に住んでらしたんですかお?」

( ´_ゝ`)「住んでたってか、今も住んでるんだがな。たまにこうして、村を出て商売をして帰って来るんだよ。流石だろう?」

言いながら、メタングは彼の後ろにずらりと並ぶダンバル達を指し示した。
数十匹はいるであろうダンバル達は、その殆どが背中に何らかの包みを背負っている。
なるほど、これが商売を終えて帰ってきた、収穫らしい。

( ´_ゝ`)「そんで、その時に賢者の話を享受したいって奴も一緒に連れて行くんだよ。
       でも西にある森から向こうは管轄外だから、たまにアンタみたいのがいるんだよな」

一通り説明を終えて、メタングは再度乗るかどうかの確認をした。
断る理由などある筈もないので、ブーンはぜひお願いしますと答えを返した。

( ´_ゝ`)「おう、それじゃ適当に荷を積んでないダンバルに乗ってくれ。落ちるなよ? 轢かれたら酷い事になるからな」

言われるまでもないと、ブーンは首を縦に振った。
あの濁流のような行進に巻き込まれたらと考えると、思わず怖気が走る程だった。

( ´_ゝ`)「そんじゃ、しゅっぱーつ」

ブーンが乗った事を確認すると、メタングは再びダンバルを率いて走り出した。
相変わらず、ダンバル達は一切乱れのない進行をしている。
ダンバルは特殊な脳波や電波で交信を行い、故に群れとなったダンバルはまるで一匹のポケモンのようにも思えるらしい。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:16:04.19 ID:0sofPTDo0
この場合は、恐らく先頭のメタングが電波を発し、全体の統制を取っているのだろう。
相互に電波を送信し合う事で調和を保つ本来の方法ではなく、一匹のポケモンが群れ全体を管理する。
管理するポケモンに掛かる負荷はとんでもない筈なのだが、当のメタングは涼しい顔をしていた。

ダンバル達は凄まじい速さで道を駆けていく。
彼らは皆地面すれすれに浮いていたが、どうやら微かに地面を擦っているようだった。
この道が異様に綺麗なのは、この事が原因なのかと、ブーンはようやく理解した。

( ´_ゝ`)「ほい、着いたぞ」

あっと言う間に、ダンバルを率いたメタングは賢者の村の入り口近くにまで到着した。
ブーンの足だけでは、後何回太陽を拝めば辿り着けただろうか分からない程長い道のりだった。
メタングは帰って早々に用事があるとの事で、ブーンは丁寧に礼を告げ、彼と別れた。

村の入り口には、番をしているポケモンがいた。
何もやましい所はないブーンは、正面から番に話し掛けた。

( ^ω^)「すいませんお。入村したいんですが、何か条件などはありますかお?」

(ヽ〟ノ)「……んぁ? 旅ポケさんかい? 条件は特には無いよ。ただ……」

門番をしているケーシィは答えを返し、しかし語尾に意味ありげな言葉を付け足した。
思わず、ブーンは同じ言葉を繰り返す。

( ^ω^)「ただ?」

(ヽ〟ノ)「賢者様に会いに来たって言うなら、それ相応の知識が必要かな」

「へ?」と、思いがけず間の抜けた声を、ブーンが零した。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:18:08.91 ID:0sofPTDo0
( ^ω^)「おぉ……!」

村を歩き始めてすぐに、ブーンは驚嘆の声を上げた。
驚いた事に、村に立ち並ぶ家々は全て、人間の建築術と同じ方法で建てられていた。
適当に目に付いた一軒に立ち寄ると、ブーンはしっかりとした作りのドアを、頭で数回ノックした。

((●)◇(●))「はーい。……おや? 見ない顔だな。旅ポケさんかい?」

ドアを開けて出てきたのは、瞑想ポケモンのアサナンだった。

( ^ω^)「はいですお。こんな凄い造りの家は初めて見ましたお。もし良ければ、中を見せて欲しいんですお」

人間の世界では当然な造りなのだが、ブーンは心の底から感銘を受けているように家を称賛した。
ポケモンが造ったという事を考えれば十分凄いし、ポケモンになってから見る家としては初めてなのだから、一応嘘を吐いてはいなかった。

((●)◇(●))「おぉ、アンタこの家の良さが分かるのかい! いいともいいとも、是非見ていってくれよ!」

家を褒められた事が甚く嬉しかったらしく、アサナンは上機嫌でブーンを招き入れた。

恐らくは賢者の設計したと思われる住居は、内装もとても素晴らしい物だった。
ぱっと見ただけでも、耐震性や頑健性は申し分ない構造になっている。
他にも家を構築する様々な要素が、いちいち理に適っていた。

例えば素材の選択や、屋根と窓の配置だ。
この辺りの太陽は、夏に真上を通り、冬は低い所を通っていく。

夏の太陽光を防ぎ、冬の太陽光は部屋に入るようにと、屋根は横に広く。
窓の位置は出来る限り西日などを屋内に受け入れないように設置されていた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:20:02.68 ID:0sofPTDo0
更に、素材も土を焼き固めて作ったレンガのような物を効果的に配置し、
断熱効果によって外気に関わらず室温を一定に保つような工夫も施されていた。
もしかしたら、人間の作る家よりも優れているかもしれない。
そうとさえ思わされる設計だった。

( ^ω^)「凄いですお。こんなに優れた設計の家は、初めて見ましたお」

((●)◇(●))「だろう? 何たってこの家は、賢者様が俺の為に設計してくれたんだからな」

嬉しさの余りか、はにかんだ笑いを浮かべて、アサナンは誇らしげに言った。
思わず、ブーンが首を傾げる。

( ^ω^)「設計してくれたって……まさか全部の家の設計をしてるんですかお?」

ブーンの質問に、アサナンはまさか、と笑ってみせた。

((●)◇(●))「そうじゃないんだけどね、ポケモンの種族によって、賢者様はそれぞれに適した家の設計をしてくれるんだよ」

( ^ω^)「……と言うと、どう言う意味ですかお?」

((●)◇(●))「うん、つまりね、旅ポケさんは気付いているかもしれないけど、この家は夏の日差しが入らないように造られてるんだ」

それには気付いている、と言う意味を込めて、ブーンは首を深く一回だけ縦に振った。

((●)◇(●))「だけど、草タイプのポケモンが住む家には、その工夫はされていない。寧ろ、より多くの太陽光を取り入れられるように設計されている。
       太陽光を拒む理由が、草ポケモンには無いからね」

なるほどと、ブーンはもう一度深く頷いた。
やはりこの村に住む『賢者様』は、その名に相応しいだけの能力を持っているようだ。
そう、ブーンは思った。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:22:02.81 ID:0sofPTDo0
しかし、彼が納得の念を抱いた直後に、アサナンは思わず耳を疑うような言葉を口にした。

((●)◇(●))「だからね。僕の家には、一つも階段って物が無いんだよ」

( ^ω^)「……へ?」

思いがけず、間抜けな呆けた声がブーンの口から零れ落ちた。
さも当然と言った口調で、アサナンは再度言葉を繰り返す。

((●)◇(●))「だから、僕の家には一つも階段が無いんだって。よく見てみなよ」

言われてみて、ブーンは屋内をもう一度、先程よりも注意して見回した。
確かにアナサンの言う通り、この家の中には一つたりとも階段が見られない。
二階や、ブーンと大差ないアサナンの身長では決して届かないような段差があるにも関わらずだ。

人間の知識と照らし合わせようとする余り、ブーンはポケモンの視点から家を見る事を忘れていたのだ。
改めて見てみると、およそアサナンが住むには大き過ぎる欠陥を、この家は抱えていた。

( ^ω^)「……何故、階段が無いんですかお?」

何だこれは、と喉元まで出掛かった言葉を飲み込んで、ブーンは別の言葉を吐き出した。

((●)◇(●))「あぁそれはね、賢者様が」

「エスパーポケモンたる者、あらゆる事を念力で済ませられなくてはならない」

((●)◇(●))「って仰って、そうしたんだよ。実際、賢者様はそれを易々と実行しているしね」

返された答えに、ブーンは釈然としない思いを禁じえなかった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:24:02.78 ID:0sofPTDo0
( ^ω^)「……でも、不便じゃないですかお? それに、それは賢者だからこそ出来る事だと思いますお」

浮かんだ疑問を、そのままブーンは投げ掛ける。
彼の言葉に、アサナンは頷いて答えた。

((●)◇(●))「そりゃ初めの方は凄く不便だったよ。今では少しましになったけど、それでもかなり不便だ。
       それに、僕なんかが賢者様と同じ次元の事をするのは、当然無理な話さ。でも……」

そこで一旦言葉を切って、やはりアサナンンはどこか嬉しそうな笑顔で再び口を開いた。

((●)◇(●))「賢者様がそう仰ったんだ。やらない理由なんてないだろう?」

彼の声を聞いた瞬間、ブーンは脊椎を残らず氷柱に挿げ替えられたような戦慄を覚えた。
恐怖ではない。
全身に、体の芯にまで一瞬で浸透する悪寒。
完全に賢者に惚れ込み、心酔しているアサナンだからこそ放ち得る気味悪さを、ブーンは感じていた。

これではまるで、宗教に於ける教主と狂信者の関係と、相違無いではないか。
いくら賢者が優れているとは言え、自分の意見を殺してまで追従する必要など、ある筈がないと言うのに。
ブーンは突如として生まれた反意を口に出そうと思ったが、

( ^ω^)「……とても面白い家でしたお。ありがとうございましたお」

((●)◇(●))「おや、もういいのかい? まぁ、賢者様の素晴らしさを知ってもらえたなら僕はそれで満足だけどね」

余計な口出しをして、機嫌を損ねでもしたら。
それだけならまだしも、仮に自分が賢者を否定する者だと村に触れ回られたら、取り返しのつかない事になる。
賢者の話を聞く事が出来なくなるのは、絶対に避けなければならない。

すっきりとしない思いを胸中に抱えながらも、ブーンはそれを押し殺して家を後にした。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:26:05.51 ID:0sofPTDo0
それからも、ブーンは村の様々な場所を見て回った。
『賢者の村』が優れているのは建築物だけではなく、他にも着目すべき点が幾つもあった。

例えば村には確固たるルール、人間で言うならば法律に当たる物があり、諍い事は全てそれに則して裁かれるらしい。
ブーンはその内容も見せてもらったが、実に理に適った物だった。
しかし、やはりそのルールの中にも、明らかに賢者個人の思想であろう、道理に反した不要な物が入り混じっていた。

もっとも、賢者と言えど所詮は一匹のポケモンだ。
完全に個を殺して物事を取り図るのは、至難の業なのかもしれない。
無理矢理に、ブーンは自分を納得させた。

( ^ω^)「お……」

いつの間にか、ブーンは村の最奥まで、辿り着いていた。
ほんの僅かな心の陰りが、こうも感覚を乱すものなのか。
眼前の一際大きな家を見上げながら、彼は心の中で独白した。

暫くの間、彼はじっと立ち止まっていた。
だが、やがてそうしていても何の意味も無いと悟ったのか、扉に歩み寄り、重厚感のある木の板を頭で数回叩いた。

一拍置いて、何の前触れも無く、扉が独りでに開いた。

(`ノUヽ´)「話は既に聞いておる。ようこそ旅ポケさん」

愛想のない嗄れた声が、家の奥から響いてくる。
見てみると、扉を潜ってすぐの広間。
その中空に、一匹のポケモンが悠然と浮遊していた。

朽ちた枯れ木のように頼りない体と、不釣合いなまでに大きな頭。
念力ポケモンと呼ばれる、フーディンだ。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:28:02.75 ID:0sofPTDo0
フーディンは知能指数が、つまりIQの数値が5000と言われている、非常に賢い種族だ。
あの、体と比べてやたらと大きな頭部は、脳が発達し過ぎて肥大した結果だと言われている。
更に一度記憶した事は決して忘れないと、確かに賢者と呼ばれるに相応しいポケモンだ。

素っ気の無い言葉と、何の感情も感じられない目で、フーディンはブーンを見下ろしていた。
言い知れない近寄り難さを感じながらも、ブーンは扉を抜けて一歩、また一歩と彼の元へ歩み寄っていく。

( ^ω^)「……お尋ねしたい事があって、ここに来ましたお」

相手を先取って、ブーンは言う。
ただでさえ細いフーディンの双眸が、更に細められた。

(`ノUヽ´)「……ならば、話は聞いておろう?」

たった一言、フーディンが呟く。

彼が満足し得る知識を献上しない限り、彼の知識を享受する事は出来ない。
ブーンはこくりと頷いた。
フーディンの造詣が一体いかほどの物かは分からないが、とにかく手当たり次第知識を吐き出すしかない。

( ^ω^)「……どんな知識でも、いいんですおね?」

フーディンは口を開かずに頭を小さく揺らすだけで答えを返した。

許可を得たブーンは遠慮なく、人間として持ち合わせる知識を紡ぎ出す。
過去の偉人が導き出した、ありとあらゆる発見を、法則を。
様々な方面から満遍なく攻めていった。

しかし、フーディンはその全てを、既に完全に理解していた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:30:07.93 ID:0sofPTDo0
ブーンが知識を半分も語り終わる前に、フーディンはその知識の全容を自分で説明してしまうのだ。
めげる事無くどれだけ繰り返そうとも、全て結果は同じだった。
最早知らない事など無いのでは、知識の収集などする必要は無いのではないかとさえ思える知識量だった。

だが、引き下がる訳にはいかない。
まだ何か、出せる知識がある筈だ。
そう、ブーンが深い思索を巡らせ始めた時だった。

(`ノUヽ´)「もうよい」

唐突に、フーディンが口を開いた。
もう、ブーンの言葉は聞くに値しないと判断したのだろうか。

( ^ω^)「……まだ、まだ僕は全ての知識を吐き出した訳じゃありませんお」

動揺に締め上げられる喉から、ブーンは無理矢理言葉を搾り出した。
しかし、フーディンは首を小さく横に振る。

(`ノUヽ´)「そうではない。其方は十分に賢い。それほどまでに知識に富んだポケモンは、君を合わせ過去三匹しか会ったことがない」

フーディンは今まで浮いていた中空からゆっくりと下降しつつ、言った。
恐らく、と言う繋ぎの言葉を挟んで、言葉は続けられる。

(`ノUヽ´)「儂には分からん。一体其方は、何が知りたいと言うのだ?」

完全に床に降り立って、フーディンは微かな懐疑を孕んだ視線をブーンに向ける。
対してブーンは、暫し沈黙を守っていた。
村の様子を見て抱いていた賢者の想像図と、今目の前にいる彼の雰囲気が、違い過ぎていたから。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:32:03.55 ID:0sofPTDo0
フーディンは、語句を加えて追求したりはしない。
ただただ、ブーンを見つめるだけだ。
冷静沈着な彼の様子は、ブーンが村を訪れ見回る前に抱いていた、賢者のイメージそのものだった。

( ^ω^)「……僕は元々人間で、ある日目が覚めたら記憶を無くした上ポケモンになっていたと言ったら、どう思いますかお?」

不遜であり失礼な話だが、この質問を以って賢者を見極めようと。
秘めたる意図を決して悟られぬよう平時と変わらぬ口調で、ブーンは呟くように問うた。

フーディンは少しの間黙り込み、

(`ノUヽ´)「……それは『ト蝶の夢』をモチーフに哲学的な意味合いで言っているのかね?
       トレーナーがバタフリーとなって遊んでいた所、夢が覚める。果たしてトレーナーが夢を見てバタフリーになっていたのか、
       それともバタフリーが夢を見てトレーナーになっているのか、と言う」

いかにも賢者らしい答えを返した。
深く物を考え、ブーンの言葉を何度も咀嚼して導き出した答えなのだろう。

だが、ブーンは首を横に振って否定した。
彼が言っているのは、そんな意味ではない。
ただ言葉を丸呑みに、鵜呑みにしさえすれば、それでいいのだ。

( ^ω^)「違いますお。……言葉通りの意味ですお」

ブーンの言葉に、フーディンはこれまで殆ど変化が見られなかった表情を、その細い双眸を見開いて変化させた。

(`ノUヽ´)「……本当なら、それは儂の理解の範疇を超えている。ユンゲラーは元々人間だったと言われてもいるが、それも所詮噂に過ぎん」

やがて、フーディンは静かな口調でそう言った。
半ば予想が出来てはいたが、それでもブーンは落胆の色を隠せなかった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:34:03.55 ID:0sofPTDo0
(`ノUヽ´)「……すまんね。儂が問いに答えられなかったのも、君が三匹目だ。
       ……だが、なるほど。君が元々人間だったと言うのなら、その賢さも納得がいく」

落ち込んだ様子のブーンに詫びつつも、フーディンは脳内でパズルを組み上げているかのように、一匹呟いた。
彼の様相はとても謙虚で、賢明だった。

ブーンが思い描いてきた賢者像と眼前のフーディンは、やはり全くと言っていい程に重ならなかった。
想像と現実の差異に耐え切れず、思い切ってブーンは口を開いた。

( ^ω^)「……この村に住むアサナンの事を、知ってますおね?」

突然の質問に戸惑いながらも、フーディンは頷きを返した。

( ^ω^)「彼の家から、一切の階段を排除したのは、何故なんですお?」

答えを待たずして、ブーンは更に続ける。

( ^ω^)「僕はあの家を見て、所詮賢者と言えど、どこぞの宗教の教主と変わらないじゃないかと、そう思いましたお。
       でも実際に会ってみて、あなたはそうではありませんでしたお。だからこそ、何故あの家に階段が無かったのか、僕には分からないんですお」

自分がポケモンになってしまった理由の代わりに、答えてもらいたいとブーンは言った。
フーディンは初めこそ苦々しい顔をしていたが、そう言われては断る事が出来なかったらしい。
表情はそのままに、フーディンは口を開いた。

(`ノUヽ´)「……あの家には、元々階段があったのだ」

言うと同時に、フーディンはそっと目を瞑る。
そして自身の念力を以って、部屋の奥から数枚の紙切れを呼び寄せた。

それをブーンの前に落とし、見せ付ける。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:36:02.83 ID:0sofPTDo0
(`ノUヽ´)「それが、元々の設計図だ」

古ぼけた紙切れには、それぞれびっしりと家屋の構図が記されていた。
その中には、確かに階段と思しき物が配置されている。

では何故。
そうブーンが悩む事を見越していたのであろう、フーディンは語り始める。

(`ノUヽ´)「あの家の階段は、彼が自分で取り外したのだよ。私が何気なく言った言葉を、曲解してね」

後悔の念を掻き消すように、彼は目を瞑った。
一呼吸して、フーディンは目を開き、再び言葉を続けた。

(`ノUヽ´)「儂は生まれついての虚弱さと、発達し過ぎた頭の為に、『行動の殆どを念力で行う。むしろ、そうしなければならないのだ』と。
       儂はそう言っただけなのだ。それを彼は『エスパーポケモンたるもの、あらゆる事を念力で行わなければならないのだ』
       と、捻じ曲げて受け取ってしまったのだよ」

だが、目を閉ざしても堪え切れなかったのか、フーディンは長い溜息を一つ吐いた。

(`ノUヽ´)「彼だけでは無い。この村のポケモンは皆、儂の言葉を拾い上げ、繋ぎ合せ、儂が思いもしない命令を、勝手に作り上げておる」

優れた存在の下に、必ずしも優れた者が集まるとは限らない。
賢者様に心酔した村のポケモン達は、彼を敬う余りに盲目的になり、何でもいいから彼からの命令が欲しかったのだろう。
賢者様から命令の言葉が頂ける事は、自分を高められる素晴らしい事なのだと。

(`ノUヽ´)「ちっぽけな自尊心を満たす為に、彼らは儂の言葉を、賢者と言う名前を拠り所にしておるのだよ」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:38:03.06 ID:0sofPTDo0
フーディンが皮肉めいた言葉を零す。

(`ノUヽ´)「役にも立てず、大して面白い話も出来なくて、すまなかった」

( ^ω^)「……いえ、とても興味深い話でしたお」

ブーンは深く頭を下げて、賢者の家を出た。
外は既に薄暗くなっている。
明るい内に村を回り、どこに店や宿泊出来る場所があるのか確かめておけたのは、幸いだった。
賢者の知識を求めて旅ポケが来ると言う事で、いずれもそこそこに充実していた。

とりあえず必要な物を手に入れてから、宿泊施設に向かおうと、ブーンは歩き出した。
食料品を取り扱っている店に向かう途中、ブーンは昼に家を見せてもらった、あのアサナンに出会った。
歩いてきた方向から、ブーンがフーディンの家へ行ってきたと判断したらしく、アサナンは満面の笑みを浮かべながら問いかける。

((●)◇(●))「賢者様の家に行ってきたのかい? どうだった? 話は聞かせてもらえたかい?」

( ^ω^)「はい。……とても面白い話を」

((●)◇(●))「へぇ、凄いなぁ。流石旅ポケさん、博識なんだねぇ」

アサナンは相変わらず、屈託の無い様子でけたけたと笑っている。

( ^ω^)「……一つ、いいですかお?」

((●)◇(●))「うん? 何だい?」

( ^ω^)「賢者様は、あなたの家から階段を無くせと言った覚えは無いと、そう言ってましたお」

ブーンの言葉を聞いた瞬間、アサナンの顔から笑顔が消え失せた。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:40:03.10 ID:0sofPTDo0
(#(●)◇(●))「――嘘を吐くなッ!」

彼は顔を酷く歪曲させて、怒号を張り上げた。
消え失せた笑顔の代わりに、みるみる内に怒りの色が湧き上がってくる。
親切心から言ったはいいが、どうやら地雷だったらしい。

(#(●)◇(●))「君は賢者様の言葉を否定すると言うのか!? 賢者様の事など何も知らない旅ポケ風情が!」

気でも違えたのではないかとさえ思える剣幕で、彼はがなり散らす。

ならば貴方は賢者様の何を知っているのか。
怒り狂うアサナンとは対極に、ブーンは妙に醒めた気持ちでそんな事を思ったが、言った所で火に油だろうと口に出すのは留まった。

しかし、状況はどうにもブーンにとって良くない方向へと向かっていた。
騒ぎを聞いて、辺りにいた他のポケモンまでもが、彼の下へと集まってきたのだ。
しかも集まってくるポケモンは皆、やはりアナサンと同じように狂気を湛えた目つきでブーンを睨んでいるのだ。

いつしか彼は、軽く二十は超えるだろう数のポケモンに囲まれてしまっていた。
よく見てみれば朝方に門番をしていたケーシィまでもが、ブーンの傍にやってきている。

正しく、一触即発の状況だ。
一体どうすれば良いのか、ブーンが額にじわりと冷や汗を浮かべながら考えている時だった。

「あ、いたいた。おーい! そこのイーブイさんよー!」

酷く場違いな調子の声が、辺りに響いた。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:42:14.86 ID:0sofPTDo0
( ´_ゝ`)「おーいたいた。……あれ? 何か立て込んでる?」

今朝ブーンを運んでくれたメタングが、間の抜けた声で近づいてくる。
その様子に皆白けてしまったのか、ブーンを取り囲んでいたポケモン達は徐々に散り散りとしていった。

辺りに完全にポケモンがいなくなってから、メタングが口を開く。

( ´_ゝ`)「……いやぁ、危なかったな。こんな事になってるんじゃないかと思ったよ」

( ^ω^)「あ、ありがとうございましたお。えっと……」

( ´_ゝ`)「……? あぁ、そういや名前をまだ言ってなかったのか。俺はアニジャって言うんだ。アンタは?」

( ^ω^)「ありがとうございましたお、アニジャさん。僕はブーンって言いますお。……ところで、さっきは何で分かったんですかお?」

改めて礼を言い、ささやかな疑問をブーンは尋ねる。

( ´_ゝ`)「何、俺も昔同じ目にあったからな。実は俺も、元々はあの爺さんを訪ねてきた旅ポケだったんだよな」

何気なしに、アニジャは答えた。

( ^ω^)「え? ……大丈夫だったんですかお?」

( ´_ゝ`)「大丈夫じゃなかったら今頃アンタも袋叩きになってるよ。……まぁその辺は色々と長ったらしい話になるからな、とりあえずウチに来るが良いさ」

アニジャはそう言って、

( ´_ゝ`)「どうせあの様子じゃ、もう買い物も宿泊もさせてもらえないだろ」

と付け加えた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:44:03.01 ID:0sofPTDo0
ブーンはアニジャの言葉に甘えて、彼の家へと案内される事になった。
彼の家は村外れの森の奥にあるらしい。
ただでさえ沈んだ太陽の陽が一切届かない、暗い森の中を、アニジャは迷う事無く進んでいく。
頭の上に、ブーンを乗せながら。

( ^ω^)「こんな暗い道で、よく迷いませんおね。やっぱり慣れですかお?」

( ´_ゝ`)「まぁそれもあるがね。俺達ダンバル系統のポケモンは、全身が磁石で出来てるんだよ。そうすると地球の磁力やらの関係で、方向を間違える事がなくなるんだ」

( ^ω^)「おっおっ、北と南が分かる。方位磁針ですおね?」

( ´_ゝ`)「おや、凄いなアンタ。この話が理解出来たのは、今までアンタとあの爺さんだけだよ」

そうこうしている内に、アニジャの家に辿り着いた。
森の奥深くにある開けた土地に、そこそこ大きな一軒家が建てられている。
辺りには柵が設けられており、その中には何十匹ものダンバルが整然と並べられて微動だにせずにいた。

( ´_ゝ`)「ただいまー」

ドアを開けながら、アニジャが言う。
すると、家の奥から返事が返ってきた。

(´<_` )「おうおかえり。……そちらさんは、朝方の?」

( ´_ゝ`)「あぁそうだ。ブーンさん、こいつは俺の弟でオトジャって言うんだ。朝出会った時は群れの最後尾にいたから分からなかったろう」

紹介を受けて、ブーンは軽く会釈をする。
丁寧に、オトジャも頭を下げて返した。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:46:02.93 ID:0sofPTDo0
メタングの兄弟はとても親切で、森で獲れたポケモンや植物を調理した物が、ブーンに夕飯にとして振舞われた。
他にもアニジャは自分達が食べていた磁気を含む鉱物などを彼に勧めたが、こちらは丁重に断られたようだ。
残念そうな顔をするアニジャに、当たり前だろうがと、オトジャが呆れたような顔で言った。

( ´_ゝ`)「おいしいのに……。まぁいい、そんじゃ代わりに昔話はいかがかな?」

食事を咀嚼していたブーンの口の動きが、ぴたりと止まる。
口内の物を一息に飲み込むと、彼は一言、お願いしますと頼んだ。

( ´_ゝ`)「よしそう来なくっちゃな。えっと……俺達が元々賢者を訪ねてきた旅ポケだって事は話したよな?」

こくりと、ブーンは首を縦に振った。

( ´_ゝ`)「んじゃ次はその理由なんだが、俺達はダンバルとして生まれて以来、ずっと抱いてきた疑問があったんだよ」

( ^ω^)「……それは、何なんですかお?」

ブーンの問いに、オトジャが答える。

(´<_` )「……心とは何か、だよ」

( ^ω^)「心?」

( ´_ゝ`)「そう、心だ。ダンバルってのは進化する時、二匹のダンバルが磁力で合体して一匹のメタングになる。
       そうして二つの脳が連結する事で、俺達メタングは普通のポケモンよか相当賢い種族なんだが……。
       不思議な事にな、進化したメタングが二つの人格を持つ事は決して無い。先例がないんだよ」

37 名前:>>36 しまったああああああ[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:48:27.67 ID:0sofPTDo0
(´<_` )「おかしいだろう? 脳みそはちゃんと残ってるのに、心だけが消えてしまうんだ。
       俺達はその事を賢者に尋ねた。だが答えは得られなかった」

メタング特有の電磁的な繋がりなのか、それとも兄弟故の絆なのか、二匹は交代交代に言葉を紡いでいく。

(´<_` )「心とは一体何なのか。脳内で発生するドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンが構築する物なのか。
       また心臓は第二の脳であり、心とは文字通り心臓に存在すると言う説もあるが、果たしてそれは本当なのか」

( ´_ゝ`)「だがそれらの理論が正しいとしても、それだけでこうも複雑な人格、心を構成し得るのだろうか。
       ポケモンは誰しもが魂なるものを持っていて、その魂が他の存在や環境によって削られた姿こそが心なのではないか」

言い終えると、兄弟は揃って一つ小さく息を吐いた。

( ´_ゝ`)「色々考えてみたが、答えは出ない。儂が問いに答えられなかったのは、君達が初めてだって、爺さん言ってたな」

( ^ω^)「お……それは、僕も言われましたお。君で三匹目だって」

ブーンの何気ない言葉に、オトジャは露骨に反応を示した。
顔を微かに顰め、彼に率直な疑問を吐き出す。

(´<_` )「あの爺さんが答えられないって……一体何を聞いたんだ?」

問い掛けを受けて、一瞬ブーンは口篭る。
果たして話していいものかと。
しかし、お世話になっている身で隠し事とは、余りにも失礼だ。

よくよく考えてみれば、この兄弟は見識もあり、ポケモン柄も良さそうだ。
話しても、損は無い。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:50:03.53 ID:0sofPTDo0
( ^ω^)「僕が元人間で、ある日何故か記憶を無くしてポケモンになってしまった。原因は分かりますか? と聞きましたお」

答えを聞いて、二匹の兄弟は暫くの間ぽかんとした表情を浮かべ、言葉を失っていた。

( ´_ゝ`)「……それはジョークだとか、哲学めいた物じゃなくて……なのか?」

長い静寂が場を支配してようやく、アニジャが何とか声を搾り出した。

( ^ω^)「えぇ、言葉のまんまですお」

これまでの沈黙は一体何だったのだと聞きたくなるほどにあっさりと、ブーンは彼の言葉を肯定した。
オトジャが小さく、信じられんと呟いた。

まぁそれが普通の反応だと、ブーンは取り留めて気にもしなかった。

( ´_ゝ`)「……確かに信じ難い話だが、わざわざそんな嘘を吐く理由もないだろう。
       わざと爺さんが答えられないような質問をして、得意になるようなポケモンにも見えないしな」

声色にはまだ迷いが見られるが、アニジャはブーンが思ったよりも簡単に、彼の話を信頼したようだった。
その上で、アニジャは更に言葉を重ねる。

( ´_ゝ`)「それよかこれは好機じゃないか? オトジャよ。もしかしたら人間ならば、心に関する真理を見出しているかもしれないじゃないか」

言い終えて、アニジャは静かにブーンを見遣った。
釣られて、オトジャも同様に彼を見る。

ブーンは申し訳なさそうに、口を開いた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:52:03.71 ID:0sofPTDo0
( ^ω^)「……すいませんお。人間にとっても、心の解明は未開の境地なんですお」

ブーンが答える。
兄弟の反応は、確かに落ち込んではいたが、落胆の色はとても薄かった。
元から、それほど期待はしていなかったようだ。

(´<_` )「まぁ……そんな虫のいい話がある訳もないか。やはりもう一段進化する以外に、知る術は無いのかもしれないな」

( ^ω^)「進化……ですかお?」

( ´_ゝ`)「あぁ、メタング二匹が合体すると、今度はメタグロスになれる。合計4つの脳みそで、物を考えられるようになるんだ。
       俺達はまだ、進化するに足るレベルまでは達していないんだけどな」

なるほど。それならば、今まで考える事すら出来なかった高次の思考へと、辿り着けるかもしれない。

ブーンは納得して、しかし同時に、漠然としたやりきれない思いを覚えた。
何がどうとは言えないが、それでも納得だけは出来ない違和感が、彼を取り巻く。

やがてその正体を、彼は理解した。

( ^ω^)「でも……それだと二匹の内どちらかは……」

( ´_ゝ`)「あぁ、消えちまうね。でも何の問題もないさ。どうせ消えるのは俺に決まってる。俺よかオトジャの方が頭良いんだからな」

(´<_` )「いいや、消えるのは俺だよ。だから問題ないんだ。アニジャは俺じゃぁ及びも付かないような次元の考えが出来る」

耐え切れず口に出したブーンの言葉を、二匹はそれぞれの言い分で認めた。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:54:04.01 ID:0sofPTDo0
兄弟の余りに淡白な態度に、ブーンは何かを言ってやろうと口を開いた。
だが、この兄弟に自分は何を言えるのかと考えると、彼の頭にはどうしても言葉が浮かんでこなかった。
当事者同士が歪な形でとは言え納得しているのに、どうして部外者の彼が口出し出来ようか。

( ^ω^)「……しかし、羨ましいですお。解を得る事に対して、一応の指針だけでもあるって言うのは」

結局開かれた彼の口からは、単なる羨望の言葉だけが述べられた。

( ´_ゝ`)「……しかしだな。アンタは本当に、何の手がかりも無いのか?」

ブーンの言葉を受けて、アニジャは彼にそう問うた。

( ^ω^)「……どう言う事ですかお?」

言葉の意味する所がいまいち分からずに、ブーンは意味を聞き返した。

( ´_ゝ`)「いやだから、アンタは本当に、人間だった頃の記憶を全て失ったのか?
        ……例えばアンタの持ってる知識なんかは、ポケモンになってから培ったのか? それとも人間の頃から持っていた物なのか?」

ブーンははっとして、それからすぐに深い思索を始めた。

言われてみれば、確かに彼は記憶こそ無いけれども、知識は殆ど完全と言ってもいい精度で残されている。
今まで無意識の内に使い、頼りにして来た人間としての知恵や思考だが、よくよく考えてみるといかにも不自然な物だ。

(´<_` )「その様子だと、人間だった頃の物らしいな。だったらその知識の傾向などを見ていけば、どんな人間だったのかなんかは分かるんじゃないか?」

今まで考えも付かなかった着想に、ブーンは顔を明るくして数回大きく頷いた。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:56:06.11 ID:0sofPTDo0
しかし、彼の高揚した気分が続いたのも、ほんの束の間だった。

「賢者様を否定する大罪ポケに死の制裁を!」

大勢のポケモンが家の外に群がり、そのような事を叫んでいる。
アニジャが窓から外を垣間見て、やれやれと首を横に振り溜息を吐いた。

( ´_ゝ`)「これは参った。お茶菓子が足りん」

(´<_` )「俺達の鉱物はまだ余ってたな。ちと硬いがそっちを見舞いしてやったらどうだ?」

兄弟は軽口を叩いているが、非常にまずい状況だった。

( ^ω^)「……すいませんお。僕のせいで、こんな……」

食事は取らせてもらった。
後は自分一匹で飛び出て、そのまま走って村から出てしまおう。
それでこの兄弟には迷惑が掛からない筈だ。

ドアに向かって一歩踏み出したブーンを、オトジャが制止した。

(´<_` )「やめとけ、別にアンタのせいじゃないさ。俺達は元々この村じゃ余所者で異端者なんだ。いつかこうなる日が来るかもしれないとは、思っていたさ」

( ´_ゝ`)「なるべくポケ目に付かないようにと森の奥に家を建てたんだが、まさか見つかるとはな。信者の執念ってのは怖いな」

二匹の制止を受けて、ブーンはやむを得ず踏み出した足を引っ込めた。
ブーンの沈鬱な表情を見かねたのか、アニジャは外でダンバルを頑張らせているから大丈夫だと、笑いながら彼に告げた。
その言葉に、少しだけブーンの心持が楽になる。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 20:58:04.07 ID:0sofPTDo0
( ^ω^)「……そう言えば、何でお二匹はこの村に留まってるんですかお? 
       嫌われてるって分かってるなら、そのまま旅を続けてしまえば良かったんじゃないですかお?」

帰ってきた平常心に付いてやってきた疑問が、ブーンの口から零れた。

( ´_ゝ`)「ん? あぁそれはな、あの爺さんに頼まれてたんだよ。あいつらの狂信ぶりを先に知ってたなら、受けなかったろうにな」

この村は、何を思って作られたのか、とても交通の便が悪い。
酷く閉塞的な村だった。
そう言った村が一概に悪いと言う訳では無いが、どうしても村の発展は難しくなる。

(´<_` )「だから誰よりも早くあの道を越えられる俺達が、他の村に行って、知識や物、技術なんかを仕入れてくる。賢者の知識と交換にだ」

( ´_ゝ`)「俺達にとっても悪い話じゃなかったしな。この商売の性質上、俺達はどんどん賢者の知識を取り入れる事が出来た訳だ」

お互いに言葉を終えて、二匹は同時に「だけど」と言葉を繋いだ。

( ´_ゝ`)「あの時、信者達に襲われて爺さんの家に逃げ込んだ俺達は、一つ条件を付けた。次こんな事があったら、その時は問答無用に旅を再開させてもらう、と」

今がその時だ、とオトジャが鋭い目つきを窓の外に向けた。
そして、おもむろにドアを開け、ブーンが制止する間もなく外に出て行ってしまった。
信者達の目が、一斉に彼に向けられる。

その夥しい視線に怯む事無く、オトジャは声を張り上げた。

(´<_`#)「もう我慢ならん! ダンバル達よ、賢者の家に押し掛けろ! あの忌々しい恩知らずを殺してしまえ!」

瞬間、今まで村ポケ達の接近を阻んでいたダンバル達が、ぴたりと動きを止めた。
そして全員が一斉に、森の外へと駆け出した。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 21:00:03.68 ID:0sofPTDo0
同時に、村ポケ達の顔が青褪めた。

(´<_` )「ほら、どうした? さっさと追わないと賢者様が死んじまうぞ?」

オトジャの言葉を皮切りに、村ポケ達も一斉に、森の外へと走っていく。
そして、辺りにはポケモン一匹いなくなった。

( ´_ゝ`)「お、どうやら散ったみたいじゃないか。じゃ、今の内に村を出るとしようじゃないか」

手早く荷造りを進めながら、アニジャが言った。

(;^ω^)「お……でも、幾らなんでも殺すのは……」

( ´_ゝ`)「安心しろ。あのダンバルが束になっても爺さんにゃ敵わんよ。それに忘れたのか? 俺達は電波を使ってダンバルに命令を出すんだぜ?」

(´<_` )「言葉の命令はフェイクさ。本当の命令は『爺さんに一連の事を説明して、ありがとうと告げてくれ』だよ。どうだい、流石だろう?」

軽く笑いながら、オトジャも荷造りに加わる。
ブーンはオトジャの言葉にほっとしながら、彼らの手伝いをする事にした。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/29(土) 21:01:34.82 ID:0sofPTDo0
 


村を出て少し歩いた所で、三匹は佇んでいた。
そこは道が分かれ、丁度岐路となっている。

( ´_ゝ`)「じゃ、ここいらでお別れだな。早いとこ人間に戻れるといいな」

( ^ω^)「おっ、お二匹も早く、心の解明が出来るといいですおね。もし分かったら是非教えてもらいたいですお」

ブーンの言葉に、二匹は笑いながら任せておけ、と言った。

それからブーンは、二匹に余計な食料などを分けてもらい、丁寧に礼をした。
アニジャは相変わらず磁気を含んだ鉱物を彼に勧め、同じように断られ、同じように突っ込みを受けた。

( ´_ゝ`)「いや……、方位磁針として使ってくれれば、旅が楽になるかなーって……」

少ししょんぼりした様子で、アニジャがぽつりと漏らす。
慌てて、ブーンは礼を言い鉱物を受け取った。

( ^ω^)「……それじゃ、またいつかお会いしましょうお」

賢者の村でも自分がポケモンとなった理由は分からなかったが、収穫が無かった訳でもない。
知識の傾向から以前の人間像を知るなど、自分の正体を探る術がある事が分かった。
探せば、他にも色々とあるのかも知れない。希望が持てた。

ブーンはアニジャ達と別の道を選び、それっきり振り返る事なく歩き続けた。

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